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日本一危険な国宝は伊達じゃなかった(あまり体験したくなかった)三佛寺投入堂/鳥取県東伯郡三朝町 

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第4回】


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


投入堂のルートの途中にある山の中に浮いているようなお堂。なかば休憩所のように機能している。撮影:森田季節

■奥の院エリアへの入山は一人では認められない

 

 近年、メディアなどで「日本一危険な国宝」という表現をちらちら目にすることがありますが、この表現で取り上げられるのは100パーセント鳥取県の三佛寺の奥の院である投入堂です。国宝建造物の数は限られていますし、大半が安全な場所にあるので、この言葉を否定しようとする人はいないと思います。

 

 とはいえ、危険といっても道がちょっと険しいぐらいなんだろうと思う人が大半かと思います。しょっちゅうケガ人が出ていたら入山できないはずだと考えるのは自然な発想です。ですが……この投入堂への道は本当に危険です! そう断言できるのは僕が拝観した際に本当に事故を目撃したからです。

 

 2018年当時のことなので現在と少し違っているかもしれませんが、過去の記録を元に書きます。危険な行程の多い奥の院エリアへは一人では入山が許可されていません。なので一人旅だと行くことはできません。僕は登山経験が豊富な友人に連れていってもらいました。三佛寺自体は大きな寺院で、険しい道に分け入る前に相当の伽藍を有していますが、ここで奥の院への入山許可を行います。靴も登山用に適したものか調べられますし、雨天などで石がすべりやすい場合は中止になる場合もあります。事前に旅程をたてていた日が偶然雨天だとその時点でアウトな可能性もありえます。

これを撮影している直後にほかの観光客が滑落。本当に安全な場所で撮影したい。撮影:森田季節

 軽登山程度のことには比較的慣れていたのですが、登山道は相当険しいです。木の根に足をかけて登ったり、ロープや鎖に手をかけて移動しないといけないような箇所も多く、国宝への道にしては想像以上に整備されていないと感じました。懸造(かけづくり)の文殊堂に到着した時点で、巨大な人工物に出会えて少し救われた気になりました。険しい山にある建物としてはこれだけでも十分すぎるほど巨大ですが、さらにボスが先にいます。

 

 そしてついに投入堂に到着しました。崖にへばりつくように建っているので、無論内部には入れませんし、近づくことすら厳禁です。しばらく安全な場所で余韻にひたっていた時、事故が起きました。

参詣道のレベルではない道。老齢の方も参拝していたので、気をつければおそらく大丈夫だが、一歩間違うと事故につながる。撮影:森田季節

■レスキュー隊が出動する事故を目撃…

 

 前のほうに出すぎた外国人女性が岩から滑落! 女性が身長分ほど岩から落ちました。周囲の空気も一瞬で変わりました。どこかに足を置ける場所があったらしく、じっとしていればさらに落ちるリスクはなさそうでしたが非常事態です。パニック状態のその観光客の同行者が手を延ばして引き上げようとしたので、登山慣れしている僕の同行者が「絶対にやめろ! 二人揃って死ぬぞ!」と止めました。人間一人を持ち上げる筋力など人間には備わってないので、フィクションのように引き上げることはほぼ不可能で二人一緒に落ちてしまうからです。

 

 幸い、電波はつながる場所だったので寺院に連絡をして、レスキュー隊を呼んでもらいました。僕を含めたほかの参拝者も現場待機で、レスキュー隊三人がロープで女性を救出したあと、一緒に下山しました。レスキュー隊の人いわく、あそこで無理をして個人が手で引き上げようとしていれば失敗して400メートル下まで落ちたそうです。投入堂は数年に一人犠牲者が出ている本当に危険なルートだということを実感しました。またレスキューのプロが道具を使って三人がかりでやっと人を引き上げられるわけで、用意がない個人が腕を伸ばして引き上げるのは不可能と言っていいでしょう。

 

 あとでわかったことですが、転落した女性は本来登山の用意などはしていなかったものの、海外旅行でそう簡単にリトライもできないので現地で同行者をつのったそうです。計画不備の行動がちゃんと命の危険を招いてしまうというのを目の前で見ることになりました。ほかの有名な寺社でも山中の奥の院や奥宮へのルートが危険な場所はあります。どうか無理をせず、入念に準備して挑んでください。

 

 

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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