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江戸の女の初体験!「水揚(みずあげ)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語61


江戸で話されていた色事、性事に関する言葉を紹介。今とは異なる言葉での表現は知れば知るほど、興味が深まる言葉ばかり。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■「水揚(みずあげ)」

 

 女の初体験。破瓜(はか)。処女を失うこと。

 

 【図】は標題に「破瓜をいやがるは表、交合(して)みたい処女(おとめ)」とあり、男が処女に迫り、水揚をしようとしているところである。

 

【図】水揚をしようとする男。(『古能手佳史話』渓斎英泉、天保七年、国際日本文化研究センター蔵)

(用例)

①『花会憎哉鴉』(下河辺拾水)

 

 見合いで結婚した男女の初夜の床。男が女にたしかめる。

 

「さだめて水揚はすんだであろう」

 などと、たわむるれば、

「ついに、そんなこと、いたしましたことは、ござりませぬ」

 と言う。

「しからば、われら、そろそろ水揚をいたそう」

 

 男は女に、「処女ではないだろう」と冗談を言ったわけである。

 

②春本『床すずめ』(司馬江漢)

 

 吉原の妓楼で、客の男が、しげみという禿(かむろ)に言う。

 

「しげみ、どうだ、水揚は俺が占子(しめこ)の兎じゃ」

 

「禿」はまだ遊女になる前の女の子。客は俺が水揚げしてやると、からかっている。

 

「占子の兎」は地口で、物事が思った通りになった時に言う。「しめた」の意。

 

 

③春本『好色春の風』(石川豊信、宝暦十年頃)

 

 妓楼で、太夫が若い遊女の水揚を、自分の客のひとりに依頼した。太夫は水揚の様子を屏風の陰で聞いていて、しだいに自分も興奮してきた。

 

客「太夫の頼みだ、痛くと、堪忍しや」

女「わちは、とうから指で水揚しておいた。痛くはないから、きつくしてくれな」

太「お客に水揚を頼んだら、ああ、どうやら気悪くなりんした」

 

「気が悪くなる」は、性的に興奮するの意味(第五回参照)。太夫は指を使い始めた。

 

 若い遊女が、指で水揚しておいたと答えるのがおかしい。指ですでに破瓜していたのである。

 

④春本『色智嚢』(石川豊信)

 

 新枕(にいまくら)と言うは、嫁入りの夜のやりくりなり。あるいは初床(はつどこ)、または水揚、下卑てはあらばち、洒落てはあらなどと言い、いずれも同じ。

 

 もちろん、新婦が処女だった場合である。

 

⑤春本『絵本開中鏡』(歌川豊国、文政六年)

 

 吉原では下級遊女である新造が客を取り始める前、水揚という儀式があった。水揚をするのは、楼主から依頼された、女扱いに慣れた客である。

 

 水揚の寝床で男が、緊張している新造に言う。

 

「何さ、何さ、痛くすることはない。はてさ、如才ないと言うに。俺もここの内の眼鏡で水揚をするからは、滅多に怪我をさせるような気のきかねえのじゃねえわな。てめえで、ちょうど水揚を二十人した男だ」

 

 男は二十人の水揚をしたと豪語している。もちろん、春画の誇張だが、こういう新造の水揚に情熱を傾ける男はいた。

 

 新造の水揚をする男は、妓楼に対して多額の祝儀を払わなければならない。かなり裕福な男でないとできないことだった。

 

 妓楼は抱え遊女の水揚に際しても、大いに金をもうけたことになろう。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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