×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

清少納言の随筆⁉︎「枕草紙(まくらぞうし)」はエロ小説だった⁉【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語59


江戸で話されていた色事、性事に関する言葉を紹介。今とは異なる言葉での表現は知れば知るほど、興味が深まる言葉ばかり。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■枕草紙(まくらぞうし)

 

 笑い本や枕本(まくらぼん)、わ印(わじるし)ともいう。

 

 春本、艶本(えほん)のこと。

 

 現代では、ポルノ(ポルノグラフィー)、エロ小説、官能小説という。

 

 言うまでもないことだが、『枕草子(まくらのそうし)』は、平安時代の清少納言の随筆。

 

【図】枕草紙で興奮した男女。(『春色一休問答』柳川重信二代、天保十一年頃、国際日本文化研究センター蔵)

 

(用例)

①春本『花会憎哉鴉』(下河辺拾水)

 

 妾が旦那の気を引く。

 

 三味線片付け、袋棚より枕草紙、取り出し、

「もし、旦那さま、おまえによう似た絵を、お目にかきょう」

 

 妾は枕草紙の中の挿絵、つまり春画を旦那に見せ、その気にさせるつもりである。

 

②春本『会本恋乃的』(勝川春章、安永八年)

 

 女ふたりが、枕草紙を読んでいる。

 

女一「あんまり湿深(しつぶか)な書きようだぞ。ああ、もうもう、どうしようのう」

女二「もう、いっそ、のぼせてきた」

女一「この枕草紙は、今年の新版だ」

 

「湿深」は、好色、いやらしいの意味。

 

③春本『会本意佐鴛鴦具砂』(窪俊満、寛政初期)

 

 風儀の厳しい武家屋敷の奥女中は、

 

 枕草紙に気を動かし、指人形に股ぐらを濡らして、男根(へのこ)ほしき最中の積もり、積もりて病の床。

 

「指人形」は、指を使った自慰。

 

 奥女中は欲求不満から、病気になったのである。

 

④春本『天野浮橋』(柳川重信、天保元年)

 

 座敷で男は、十八、九歳の芸者とふたりきりになると、

 

男「おめえとふたりで、こうしていると、きつい枕草紙のようだぜ」

女「おや、おまはんと枕草紙をしてごらん、大騒ぎだよ」

 

 男はさそい、女は断っている。

 

⑤春本『東名所二十八景』(歌川国盛二代、文久元年頃)

 

 忍んできた男に、春本を見ていた女が言う。

 

「枕草紙を見て、少しきざしたところだから、とんだいいつぼよ」

 

 枕草紙を読みながら、興奮していたのである。

 

[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
永井義男著 「江戸の遊郭」

永井義男著 「江戸の遊郭」

現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。

Amazon Apple Books 楽天Kobo

KEYWORDS:

過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

最新号案内

『歴史人』2025年10月号

新・古代史!卑弥呼と邪馬台国スペシャル

邪馬台国の場所は畿内か北部九州か? 論争が続く邪馬台国や卑弥呼の謎は、日本史最大のミステリーとされている。今号では、古代史専門の歴史学者たちに支持する説を伺い、最新の知見を伝えていく。