「未来のために歴史はある」大河ドラマ監修で活躍する小和田哲男先生は、どのように“歴史”と出会ったのか?
歴史への道
歴史の専門家たちは、いつ、どうやって“歴史”と出会ったのか―。
歴史を愛し生業とする“歴史のプロ”たちに、「歴史を知る楽しみ」「歴史とは何か」を語ってもらう新連載「歴史への道」。記念すべき第1回は、現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」をはじめ多くの時代考証を務め、書籍・講演・メディアを通じて戦国史の面白さを発信し続けている小和田哲男先生に、未来につながる“歴史への道”を語っていただきました!

愛犬との散歩コースだった江戸城(桜田門)
■愛犬との散歩コースだった江戸城
――多くの媒体を通じて戦国史の面白さを発信している小和田先生ですが、そもそも歴史に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
小和田先生 母が歴史好きで、子どもの頃に歴史の話をよくしてくれていたことと、江戸城の堀・石垣・城門などを見て、城に興味を持ったのがきっかけですね。
――現在は静岡を拠点にされている先生ですが、きっかけは江戸城だったのですね。
小和田先生 小学校4年生の頃に江戸城半蔵門の近くに住んでいて。犬の散歩コースが半蔵門~三宅坂~桜田門でした。
――江戸城周辺がお散歩コースなんて、羨ましいです!そんな先生の、お城を巡る醍醐味とはどんなところでしょうか?
小和田先生 城跡を歩くと、文献史料に書かれていない遺構をみつけることがあります。それは、「発見」の喜びと同じですね。旧家を訪ねて、従来知られていない古文書を「発見」したときにも興奮しますね。
――「発見」の喜びが、研究の醍醐味ということですね。反対に、歴史を研究するうえでの苦労はどんなところだと感じていますか?
小和田先生 通説とはちがう新説を提起しても、それがなかなか受け容れられないときですね。そんなときは、どうしたら受け容れられるか悩みます。そのような場合、さらに自分の新説を補強するための史料を探すことになるのですが、それがうまくいかないことが多く…。その点は苦労しますね。
――なるほど、新しい「発見」も、受け容れられない場合もあるのですね…。
■「未来のために歴史はある」歴史は未来を照らす“鏡”
――戦国史の第一線で活躍されている小和田先生ですが、今一番注目している歴史トピックなどはありますか?
小和田先生 実は2020年にオープンした岐阜関ケ原古戦場記念館の館長を仰せ付かっているんです。そのこともあり、いま一番力を入れているのは「関ヶ原の戦い」!
――「関ヶ原の戦い」!アツいテーマですね!
小和田先生 関ヶ原の戦いについては、従来の通説についての見直しが進んできているとの印象があります。これは何も、関ヶ原の戦いだけのことではないですが、これまでに知られている史料の読み直し、読み込み方を変えることで、新しい歴史像が浮かんでくることが多いんです。関ヶ原の戦いをめぐっても、次からつぎへ新説が提起されてきており、それら新説の是非が問われているという思いがありますね。
――なるほど、まだまだアツくなっていくということですね。楽しみです!ちなみに、もし1度だけタイムスリップできるなら、先生が行ってみたい歴史の舞台はありますか?
小和田先生 やはり、天正10年(1582)6月2日、「本能寺の変」当日です。本能寺の明智光秀に、「謀叛(むほん)の動機はずばり何だったのですか」と聞きたいですね。
――それは、私もぜひ聞きたいです!光秀はなんて答えるんだろう……。
小和田先生 従来主流だった「怨恨説」は今、影をひそめていますが、光秀自身、もしかしたら信長のパワハラに耐えきれなかったのかもしれないという思いもあります。私自身は、「信長非道阻止説」を提唱しており、その是非についても直接聞いてみたいです。
――想像してワクワクしてきました…!最後にぜひ、先生にとって“歴史”とは何か、教えてください。
小和田先生 平安時代に書かれた『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』、鎌倉時代の『吾妻鏡』のように、歴史書には“鏡”の字がつくものが多いです。これは、「過去を鏡に映し、未来を照らす」という鏡の効用を示しています。このように、過去~現在~未来がつながっているわけで、決して、歴史は過去だけのものではない。未来のために歴史はあるわけで、そうした歴史の受け取り方をもつ必要があるのではないかと考えています。歴史は、単に過去を追憶するためのものではないのです。
――なるほど、歴史に向き合うことは、未来に向き合うことにもなるのですね。小和田先生、ありがとうございました!
【歴史研究者 小和田哲男】
おわだ てつお/1944年、静岡市生まれ。静岡大学名誉教授。戦国時代史研究の第一人者。NHK「歴史探偵」など歴史番組に出演。NHK大河ドラマでも数多くの時代考証を担当。戦国武将に関する著書多数。2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」時代考証担当。