江戸時代の地者「地獄」というお仕事【前編】 ~陽は売女にあらず、密に売色する素人女~
江戸の性職業 #027
■なぜ高級なセックスワーカーが“地獄”と呼ばれたのか⁉

図1『米饅頭始』(山東京伝著、安永9年)、国会図書館蔵
「地獄」と呼ばれるセックスワーカーがいた。
『守貞謾稿』(喜多川守貞著)は地獄について――
坊間の隠売女にて、陽は売女にあらず、密に売色する者を云ふ。天保以来、とくに厳禁なり。しかれども往々これある容子なり。
江戸地獄、上品は金一分、下品は金二朱ばかりの由なり。自宅あるひは中宿有りて売色する由なり。
――と述べている。
つまり、町中に普通に暮らしていて、ひそかに売春に従事している女を地獄と呼んだ。
揚代は、上は金一分、下は金二朱だから、かなり高い。セックスワーカーとしては高級と言えよう。
客の男と性行為をするのは自宅、あるいは中宿(なかやど)と呼ばれる中継場所で、料理屋の二階座敷や、貸座敷など。
『寛天見聞記』は――
裏借家などの幽室に籠り、地獄といふ女も有よし。
――と述べており、これは自分の住む裏長屋に男を招く地獄であろう。
いっぽう、図1は、階下の障子に「御借シ座敷」と記されている。また、二階の座敷の屏風には「回春」と書かれている。
軒下には魚や鳥が吊るされており、料理も出すようだが、ここはいわゆる「貸座敷」で、男女が密会する場所だった。
図1のような貸座敷を中宿にする地獄もいたのであろう。
さて、地獄という名称の由来には諸説ある。
『梅翁随筆』によると、素人女を地者というが、その地者を「極」内々で呼ぶので、地獄というようになった、と。
『了阿遺書』(村田了阿著)は、地者の「極」上なので、地獄と呼ぶようになった、と。
『月雪花寝物語』(中村仲蔵著)は、秘密の楽しみなので、地獄の楽しみというようになった。地獄の沙汰も金次第だ、と。
(続く)