歌舞伎役者だけではなく相撲力士も?「男妾」というお仕事 ~女は若い男を自分好みに仕込む~
江戸の性職業 #026
■歌舞伎役者だけではなく、相撲力士も男妾に

図1『万福和合神』(葛飾北斎、文政4年)、国際日本文化研究センター蔵
三十歳の裕福な後家が、十七歳の奉公人に目を付け、性の手ほどきをした。その後は男妾(おとこめかけ)にして、思うがままに性を享楽している様子が図1である。
女にしてみれば、年若い男を自分好みに仕込み、性の奉仕をさせるわけで、至高の悦楽であろう。
男にしてみれば、女に性の奉仕をするのが仕事である。男妾はセックスワーカーと言ってよかろう。
春本『艶本葉男婦舞喜』(喜多川歌麿、享和2年)に、炬燵(こたつ)のそばで後家が男妾と情交している場面がある――
「さあさあ、早く早く、ぐっと入れて。ああ、もうもう、入れぬ先から気が生き続けだ。ああああ」
「男妾もつらいものだ」
悦楽の追求に貪婪(どんらん)な後家の相手をしながら、男は内心で「男妾もつらい」と愚痴っている。
雇い主である後家の要求が強すぎるようだ。
戯作『東海道中膝栗毛』(十返舎一九・じっぺんしゃいっく 著)の大坂の場面で、次のような話がある。
船場の大きな商家に、三十四、五歳の後家がいた。番頭がこぼす――
「どうも役者買うて、金使うてならんさかい、厄介のない男妾、抱えたい」
番頭は、後家が役者に入れあげて金を浪費するのが心配だった。下手をすると、家産を傾けてしまう。そこで、後家のために、もっと安上がりな男妾を抱えたい、と。
これを聞き、弥次郎兵衛と喜多八は目の色を変えて男妾を志願するのだが、もちろん、ふたりともあっさり断られてしまう。
ともあれ、女が金を出して歌舞伎役者と性を享楽するのを「役者買い」と言った。それにしても、男妾より役者買いの方がはるかに大金がかかったのがわかる。
この役者買いは、大坂に限らず、江戸でもおこなわれていた。
春本『馬鹿本草』(磯田湖龍斎・いそだこりゅうさい 安永7年)に、かなり高齢の女が役者買いをしている場面が描かれている。
若い役者が老婆に重なり、情交しながら、ねだるーー
「このじゅう、お約束の羽織をおこしておくれ」
「おおおお、呑み込みました」
役者の方は女に買われるのに慣れていた。状況を見て、羽織をねだっている。いっぽうの老婆は、快感にあえぎながら、了承している。
もちろん、当時の女は経済力がなかった。役者買いができるのは、金を自由に使える豪商の後家、大奥の奥女中(おくじょちゅう)くらいだったろう。
一部の若手の歌舞伎役者は、セックスワーカーだったといってよい。
そのほか、「相撲買い」もおこなわれていた。女が小遣いをあたえ、若い相撲取りを男妾にする。一部の力士もセックスワーカーだったといえよう。