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反射炉・御台場を築造した「日本近代化の父」江川太郎左衛門英龍(えがわたろうざえもんひでたつ)

新しい時代・明治をつくった幕末人たち #012

「日本の未来」を見据えて御台場を築造

静岡県の韮山に現存する反射炉。大砲など近代的兵器の製造に不可欠の設備で、江川の尽力で建設された。

 江川太郎左衛門英龍は幕末期の伊豆韮山代官でありながら、相模・甲斐など天領5カ国の代官でもあった。伊豆韮山に現存する反射炉や海防のための御台場築造などに尽力し、「日本近代化の父」とも目されている。「太郎左衛門」は世襲代官職の通称。間宮林蔵・伊能忠敬などは父親の友人であり、少年時に彼らから仕入れた西洋実学・産業改革などの情報が、成人して役立ったという。

 

 17歳で江戸に出て、剣道を習うと同時に、蘭学・諸外国の地理歴史・海外事情までを学んだ。27歳で弟子入りした刀匠での経験は、後の反射炉築造・洋式銃・洋式砲製造に生かされることになる。

 

 父の死によって35歳で代官職を世襲した英龍は天保の大飢饉に際して実力を発揮し、幕閣から注目された。国際情勢分析・伊豆海防策を提出し、その後に渡辺崋山にも師事する。英龍は、他より早く「時代の先」を見ることが出来た人物でもあった。

 

 さらに長崎の様式砲術家・高島秋帆にも学び、江戸で韮山塾(学問所)を開くと、その塾生には佐久間象山・橋本左内・木戸孝允・井上馨・大山巌・黒田清隆ら後の「倒幕実行組」が多くいた。

 

 清国でのアヘン戦争勃発に、英龍は「軍制改革待ったなし」として幕府に献策。幕府はこれによって軍制の近代化に着手する。後に幕府が近代的要塞(御台場)築造を計画すると英龍はその責任者になって完成させる。反射炉計画は、安政2年(1855)1月、英龍の死去によって嫡男・英敏に受け継がれ、完成する。反射炉とは鉄製大砲の鋳造に必要な溶解炉(従来のるつぼとは異なる)をいう。

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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