暴君「董卓」は苦労人なうえに可哀想な人物だった!? 三国志好きほど“沼にハマる”異色マンガ『三国志凶漢伝 暴喰の董卓』著者、特別インタビュー
ここからはじめる! 三国志入門 第130回
■『暴喰の董卓』作者への特別インタビューを敢行!
監修者・渡邉教授も太鼓判の『暴喰の董卓』。最後に作者の杉山惇氏(すぎやまあつし)さんにインタビューを行なうことができた。今後の展望も見据えた貴重なお話、ぜひご一読いただきたい。
―――読者からの反響、感想は、どんなものが多いですか?
「董卓が可哀想に見えた」という感想です。悪い人物であることは変わらない。それでも一人の人間として共感してもらえた。そこは、こちらの意図通りに読んでいただけたと感じています。作中では、彼が失敗し、追い込まれ、その末に暴食へ向かう構造を描いています。重圧の中で歪んでいく人間像として受け取っていただけたのだと思います。
意外だったのは、読者の方々がこの董卓像を受け入れてくださったことです。これまで董卓は、「悪のカリスマ」や「酒池肉林の象徴」のように描かれることが多かった。ある意味、豪快なネタキャラクターとして扱われることもあったと思います。そんな中で、苦労人としての董卓を提示したとき、反発もあるのではと覚悟していました。
けれど実際には、三国志好きの方々ほど深く読み取ってくださった。ギャグとしてだけでなく、歴史的背景や構造まで考えて受け止めてくださった。そこはとても印象に残っています。
―――改めて・・・董卓の漫画を描こうと思われたワケは?
幼い頃から三国志に触れてきました。漫画を描き始めた頃から、いつか三国志を描きたいと思っていましたが、当時はまだ技術が足りないと感じていました。年齢を重ね、経験も積み、「今なら描けるかもしれない!」と思えたとき、改めて題材を考えました。
劉備や曹操といった有名な人物は、これまでも作品になっています。しかし董卓を主人公にした作品は、ほとんどありません。なぜか。董卓は強烈な悪役として語られてきた人物です。嫌われ役は、誰もあえて主人公にはしない。けれど、三国志という物語の起点に立っているのは董卓です。彼が洛陽に入り、政治の構造を動かしたことで乱世が本格的に始まった。
出し尽くされたと思われがちな三国志というジャンルの中で、実はまだ正面から描かれていない核心がある。そして令和のこの時代なら、固定された善悪観だけでなく、その内側にある葛藤や構造まで描けるのではないかと思いました。

『三国志凶漢伝 暴喰の董卓』第1巻より。いよいよ曹操が登場!董卓がピンチに。 ©新潮社/杉山惇氏
―――杉山さんと董卓との「出会い」は?
董卓との本格的な出会いは、小学生の頃に遊んだ『三國志IX』でした。当時の僕にとって、董卓は「天下を取った悪党」という存在。広い領土を支配し、強く、そして悪い。同時に、あれほどの勢力を持つ巨大な敵に立ち向かうという構図は、少年にとって憧れでもありました。圧倒的な存在がいるからこそ、物語は燃える。そんな感覚でした。
しかし年齢を重ねると、別の疑問が生まれました。本当に“力だけ”で、あれほどの勢力を築けるのだろうか。洛陽を制圧し、朝廷を掌握し、多くの兵をまとめる。それは単純な暴力では成立しないはずです。なぜそこまで支配できたのか。その背景には、制度や政治的判断、時代の構造があったのではないか。
悪とされてきた董卓の側に立ったとき、史実は彼からどう見えていたのかを考えるようになりました。「董卓=悪」という単純な図式から一歩引いて見たとき、初めて人物としての厚みが見えてきました。
―――「暴喰の董卓」をお描きになって、漫画家として、杉山さんご自身として、何か変化はありましたか?
一番大きく変わったのは、史実や制度、思想を理解しようとする姿勢です。これまで自分はあまり体系的に勉強してきたタイプではありませんでした。どちらかといえば勢いで突き進む、涼州的な気質だったと思います(笑)。
しかし董卓政権を調べていく中で、特に蔡邕という存在を理解したとき、物事の捉え方が大きく変わりました。官制や儀礼、思想を知ることで、人物の行動の意味がまったく違って見えてくる。表面的な善悪ではなく、その時代の構造の中で判断しなければならないと気づきました。
さらに、渡邉義浩教授との出会いも非常に大きいです。学問と真剣に向き合う姿勢に触れ、自分の勉強への向き合い方も変わりました。例えるなら、関羽が知識人に対してどこかコンプレックスを抱きつつも、そこに追いつこうと努力するような感覚でしょうか。創作だけでなく、自分自身の姿勢も変えられている。それがこの作品で得た一番の変化です。
―――これから、物語が大きく展開していきそうですが、新たに登場する人物で注目してほしい人や場面は?
いよいよ反董卓連合が動き出します。董卓軍にとって最大の危機です。ここから物語は崩れていく局面に入ります。味方側では李傕(りかく)、郭汜(かくし)、徐栄(じょえい)。敵側では孫堅(そんけん)や袁術(えんじゅつ)。そして貂蝉(ちょうせん)が出るのか出ないのか。連合軍が立ち上がったとき、董卓政権は何をしていたのか。追い詰められた側の視点から見ることで、歴史の印象は大きく変わると思っています。
―――最後に連載を楽しみにされている読者へのメッセージを。
董卓は「三国志の始まり」に立つ人物です。歪みを抱えた漢帝国の中で、彼が何を見て、何を正そうとしたのか。その動機を考えたとき、印象は少し変わります。だからこそ今作は、三国志の始まりに立ち返ると同時に、1800年に一度の再評価だと考えています。
まだ描きたいことは山ほどあります。もし三国志が好きで、この再解釈を面白いと感じていただけたなら、ぜひ単行本を手に取ってくだされば嬉しいです。それが、次の展開につながります。そして三国志というジャンルが、これからも描かれ続ける力になると信じています!

『三国志凶漢伝 暴喰の董卓』(バンチコミックス)第1巻表紙 ©杉山惇氏/新潮社
―――以上、熱く語ってくださった杉山さん。董卓軍が最大の危機を迎え、どのように崩壊していくのか。監修の渡邉教授もおっしゃるように、ぶっちゃければ単行本の売り上げは董卓の「延命」につながるわけで、それが連載の原動力となろう。応援になればと願う。
◆作者プロフィール
杉山惇氏(すぎやま・あつし)
静岡県出身。第4回ヒーローズ漫画大賞佳作、第4回ヒーローズ月例賞ブロンズ賞、ヤングアニマル月例賞佳作を受賞。受賞作がウェブ上で公開されたのち、『メイヤー・オブ・ヘルランド』で紙媒体デビュー。代表作に「ヘルランド」シリーズ、『帝国貴族の剣闘士生活』など。現在はコミックバンチKaiにて『三国志凶漢伝 暴喰の董卓』を執筆中(現在、単行本1巻が発売中)。
https://kuragebunch.com/episode/2550912965593682791
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