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古代にも「コメ問題」があった! 「五世の孫」の不文律と「三世一身の法」から考える政治


奈良時代は人口の増加に伴い、農地を広げて食糧生産量を増やすために試行錯誤が行われます。「三世一身の法」ということばを歴史の教科書で見たことがあると思います。この一行程度の史実から当時の人々の心境を考えてみましょう。


 

■古代の不文律と政治

 

 現代では様々な事情で祖父母の顔や名前もよく知らないという人も大勢いると思いますが、あなたには父方と母方にそれぞれお爺ちゃんとお婆ちゃんがいらっしゃるはずです。

 

近世には「江戸に三代続けば江戸っ子だ」という「江戸っ子三代」ということばがあったようですが、さらにその先代になると会ったことも無いだろうしよくわからなくなりますね。

 

 ところで「○代目の店主」などと老舗ではよく聞きますが、「○代」と「○世」はどう違うのでしょうか?徳川将軍を例に考えてみるとその違いがよく分かります。将軍は「第○代」と数えます。なぜなら、初代の徳川家康からすべて直系で将軍職が継がれているわけではないからです。二代徳川秀忠・三代家光・四代家綱は家康の子・孫・曾孫ですが、五代綱吉は三代家光の四男ですから、徳川綱吉は家康から見て「四世五代」といえるわけです。

 

 つまり「○世」は親子関係、「○代」は世襲関係の数字と考えればよいでしょう。これは古代の大王家でも同じで、兄弟で即位をする場合も多く、天皇系譜は「○代」で数えます。

 

 古代史には「五世孫(ごせいのまご・ごせいそん)」ということばが散見されます。五世孫を大義に皇位を継いだのが第26代継体天皇ですし、平将門は桓武天皇の五世孫を理由に皇位に就こうとしました。古代天皇家では、六世以降遠縁になったら皇族としてのさまざまな権利を失ったようです。それは元々庶民にも共通の価値観があって、古来の不文律であったのだろうと思われます。

 

 一方、中央集権体制の律令時代に欠かせないのが、税をいかに徴収するかという重要な課題でした。それを解決するために「班田収授(はんでんしゅうじゅ)の法」という制度が制定されます。それは米を作る田んぼは国家の物で、それを各家に貸し与えて稲作を行わせ、その出来高から収税するという、とても良く考えられた収税法です。

 

 ところが、人口が増えて国家が貸し与える田んぼが足りなくなったので、臨時に改正法が発布されます。「新たに水路を開き田んぼを開墾した者には三代にわたってその田んぼを私有する事を許す」、という改正法です。これが「三世一身の法」と呼ばれる「格(きゃく)」なのです。「格」とはその時に応じた臨時の改正法と思えばよいでしょう。

 

 しかしこの「三世において田んぼの私有を許す」という政策はほとんど効果がありませんでした。

なぜなら「一生懸命水路を開削して新田を開墾しても三代までの私有なのか?ケチ臭いなあ」という庶民の反応だったようなのです。

 

 つまりこの時代の不文律として「家督財産相続などの権利は五代が常識」だったのだろうと思われるのです。要するに開墾はさせたいが、班田制を維持もしたいという理由でケチったのでしょう。奈良時代には「百万町歩の開墾計画」という大スローガンがあり、米の収穫高を飛躍的に伸ばして国力を蓄えようという大命題がありましたが、この「三代に限る」という中途半端な政策は不人気で、あまり効果が無かったのです。

 

 そこでついに「墾田永代私財の法」が発布されます。これは班田制を根底から覆す大決断なのですが、とにかく収穫高を増やさないといけなかった事情が優先されました。この政策は庶民の開墾動機を大いに促して開墾が盛んになりますが、律令体制の根幹である班田収授法は崩壊し、やがてさまざまな変遷の後に荘園制度につながっていくのです。

 

 天皇即位の権利までを保証した「五世孫」という家督相続の不文律が古代にあったことを明確に示している「三世一身の格」と「墾田永代私財の法」の経緯だと感じます。教科書ではほんの数行で済まされる話ですが、当時を生きたご先祖様たちにとっては生活をかけた大変革の時代であり、その当時を生きた人々の常識を垣間見るような話だと思います。

 

 歴史の中にはこのような今とは違う常識、しかしながら同じ感情を持ち合わせた精神世界がベースにあって社会が動いていたことを実感します。古代史を考える時には、現代人の感覚にとらわれては見逃すことも多いだろうと感じますが、米の生産に苦慮していたのは現代も古代も同じなのかもしれません。

豊かな風景だが、現在の米価の値上がり問題は需給バランスが主な原因だといわれ、幕末の長州征伐が原因の米騒動を思い出す。米は古代から食糧問題の主役であり、時に政治史に大きな影響を及ぼす
ことがある。
撮影:柏木宏之

 冷静に、さまざまな証言や事実の記録などから創造を逞しくして読み解くのも歴史の醍醐味か、と思います。みなさんも歴史の世界を楽しんでみませんか?

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柏木 宏之(かしわぎ ひろゆき)
柏木 宏之かしわぎ ひろゆき

1958年生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒業。1983年から2023年まで放送アナウンサー、ニュース、演芸、バラエティ、情報、ワイドショー、ラジオパーソナリティ、歴史番組を数多く担当。現在はフリーアナウンサーと同時に武庫川学院文学部非常勤講師を務め、社会人歴史研究会「まほろば総研」を主宰。2010年、奈良大学通信教育部文化財歴史学科卒業学芸員資格取得。専門分野は古代史。歴史物語を執筆中。

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