朝ドラ『あんぱん』「永遠の恋人」に会いにロンドンへ… アンパンマンにも影響を与えた美人作家とは?
朝ドラ『あんぱん』外伝no.77
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、最終週「愛と勇気だけが友達さ」が放送中。嵩(演:北村匠海)とのぶ(演:今田美桜)が大事に育ててきた「アンパンマン」はテレビアニメとなって世に出た。事前の予想に反して、子どもたちはアンパンマンの物語に魅了され、一躍人気アニメに育ってゆく。さて、史実ではアニメが人気を博した頃、やなせ氏は海外旅行の合間に「恋人」に会いに渡英している。今回はそのエピソードをご紹介したい。
■アンパンマンは『青い鳥』と『フランケンシュタイン』から生まれた
やなせ氏は映画好きで、洋画への造詣も深かった。そのため、やなせ氏が生み出したキャラクターには洋画から受けたインスピレーションが大いに反映されている。著書でとくに意識した作品として挙げられているのが、『フランケンシュタイン』や『風と共に去りぬ』だ。
さて、テレビアニメ『それいけ! アンパンマン』が放送開始となり、一躍国民的人気アニメに成長しだした平成3年(1991)の11月、やなせ氏はどうしても叶えたい願いがあってイギリス・ロンドンにいた。漫画家仲間とのベルギー旅行の最中で、助手とともにロンドンに飛んだという。滞在していたブリュッセルからロンドンまでは、空路で1時間だった。
ここでやなせ氏は早朝のケンジントン公園を訪問し、ピーターパンの像を見ている。『ピーターパン』もまた、やなせ氏にとって大切な作品だったからだ。
しかし、ロンドンまでやって来た本来の目的はこれではない。目的地はナショナル・ポートレート・ギャラリー。そこにはやなせ氏が学生時代から恋焦がれ、「恋人」と言い表した憧れの女性の肖像画があった。その女性は、メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリーという。1818年に出版されたゴシック小説『フランケンシュタイン』の作者である。
やなせ氏は学生時代に映画『フランケンシュタイン』を観て衝撃を受け、その世界観にのめり込んだ。そして、原作者であるメアリーがこの作品を書き上げた時、まだうら若い21歳、しかも美人という事実を知ってすっかり虜になったという。
長年敬愛し続けたメアリーの肖像画を見に行くときの気持ちを、「やっと巡り逢うことができると思うとうれしくて胸ドキドキワクワク!」と書き残している。これだけでもどれほど熱望していたかがよくわかる。
展示されているメアリーの肖像画は40歳過ぎの彼女を描いたものだというが、やなせ氏にしてみれば「いかにも英国の上流婦人らしく穏和に微笑していて十分に美しい」ものだった。
やなせ氏自身は映画から入ったのだが、後に原作小説を読んであまりの違いに驚かされたという。その本にあった著者の小さな写真では物足りなくて、いつか本物の絵を見たかったというのだ。長年の夢は、こうして叶った。
ミュージカルの企画が進んだ際には、アンパンマンが誕生するシーンを嵐の夜に設定したが、これは映画『フランケンシュタイン』を下敷きにしたものだった。そもそも、アンパンマンというキャラクター自体が、メーテルリンクの『青い鳥』に登場する「パンの精」とフランケンシュタインから着想を得ており、やなせ氏にとっては生涯自分の頭の中にあった作品だったのである。

イメージ/イラストAC
<参考>
■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)
■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)