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徳川幕府から「警戒」された北出羽の雄・秋田実季

武将に学ぶ「しくじり」と「教訓」 第79回

■幕府からも「警戒」された秋田実季

現在の能代港(秋田県能代市浜通町)。1598年(天正17年)に秋田地方を統一した秋田実季は、能代湊(港)を整備。畿内には杉板、丈木、筒木、米、大豆などが運ばれ、畿内からは非自給的な商品が運ばれ、領国経済を活発化していた。

 秋田実季(あきたさねすえ)は、戦国時代に現在の秋田県の北部一帯を支配するほどの勢力を有しながらも、現代では秋田県との関係も含め、一般的には知られていない戦国大名です。

 

 秋田家(安東家)は鎌倉時代に蝦夷管領(えぞかんれい)を名乗り、北条得宗(ほうじょうとくそう)家から蝦夷地の代官を任されたと言われ、室町幕府からも北海道の一部の支配を任されています。

 

 戦国時代には、周囲の南部家や津軽家による北東北の勢力争いを戦い抜き、関ヶ原の戦いでも御家存続に成功しますが、徳川幕府から突如として蟄居(ちっきょ)処分に処されます。

 

 これは実季が幕府や周辺勢力から「警戒」されるほどの存在だった事が原因だったと言われています。

 

■「警戒」とは?

 

「警戒」とは辞書によると「危険や不測の事態を予測し、注意深く見守ること」とされています。何か良くないことや、予期せぬことが起こる可能性を感じ取り、それに備える心の状態や行動を指します。

 

 似た言葉とされる「注意」は、場面に関わらず気を配る時に使われますが、「警戒」は危険な状況に備える場合に使用されます。

 

 実季は戦国時代において「警戒」が必要な存在でした。

 

■秋田家の事績

 

 秋田家は安倍貞任(あべのさだとう)の末裔と称しており、鎌倉幕府から蝦夷の代官に任じられた安東(安藤)家を出自とするとされています。鎌倉時代末期には、現在の青森県と北海道南部に影響力を拡大しています。室町時代ごろには、秋田にも進出しています。

 

 その後、檜山(ひやま)安東家と湊(みなと)安東家などに分かれますが、戦国時代になると後継者問題から檜山家の父愛季(ちかすえ)によって統合されます。

 

 この頃に現在の秋田県の大部分を支配下に置くようになります。中央との関係性も強化し織田信長や豊臣秀吉との誼(よしみ)を通じています。

 

 1587年に愛季が死去し、実季が家督を継承すると後継者争いが起こりましたが、戦いに勝利しています。湊合戦と呼ばれるこの争いは周辺の南部家や津軽家、小野寺家を巻き込んだ北東北の勢力図を左右する大規模なものでした。

 

 その後、豊臣政権との交渉に成功し、出羽国内の所領7万8500石のうち、約5万石を安堵されています。この頃に名字を安東から秋田に変えています。秋田家は北出羽の大名として正式に認められ、諸侯に列する存在となります。

 

■軍事力と外交力で北出羽を領した実季

 

 1589年ごろに、実季の家督継承時に起こった従兄の安東通季(あんどうみちすえ)による反乱は、湊合戦と呼ばれています。その背後には南部家や小野寺家など、周辺勢力の存在がありました。

 

 この騒動の中で、実季は10倍と言われた敵の軍勢に対して、わずかな兵で籠城し、5ヶ月以上かけて勝利に導いています。この時、南部家からの独立を図る津軽為信などからの支援を受けていました。

 

 そして、秋田領へ侵入を図ろうとする小野寺家や南部家を巧みに撃退しながら、安東通季を破り、実権を掌握しています。

 

 1590年5月ごろには小田原征伐に参陣し、秀吉から北出羽の所領を安堵されています。遠く離れた中央政権の動向も注視していたようです。この時、参陣しなかった者の多くは改易されています。

 

 秋田家は代々、中央との繋がりを意識していたようで、信長の妹婿である細川昭元(ほそかわあきもと)の娘を実季の正室に迎えています。結果として織田家だけでなく、豊臣家と徳川家とも縁戚関係を持つことになりました。

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森岡 健司もりおか けんじ

1972年、大阪府生まれ。中小企業の販路開拓の支援などの仕事を経て、中小企業診断士の資格を取得。現代のビジネスフレームワークを使って、戦国武将を分析する「戦国SWOT®」ブログを2019年からスタート。著書に『SWOT分析による戦国武将の成功と失敗』(ビジネス教育出版社)。

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