朝ドラ『あんぱん』デートで大失敗してあっさりフラれる… 暢さんより前に恋した女性との苦い恋愛経験
朝ドラ『あんぱん』外伝no.55
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、第16週「面白がって生きえ」が放送中。編集部に代議士・薪 鉄子(演:戸田恵子)から電話がかかってくる。のぶ(演:今田美桜)らはクレームかと身構えるが、鉄子はのぶの記事を絶賛し、やはり自分のもとで働いてほしいと希望した。嵩(演:北村匠海)はのぶが東京に行ってしまうのではないかと心配し、周囲はのぶに気持ちを打ち明けられない嵩にやきもきする。さて、ドラマでは幼馴染という設定もあってのぶだけを想い続けている嵩だが、モデルのやなせ氏は小松暢さんとの出会いの前にいくつかの恋を経験している。今回はそのうちのあるエピソードをご紹介する。
■デート中に殺し文句が咄嗟に出なくてムードぶち壊し
昭和20年(1945)8月15日、ポツダム宣言の受諾と日本の降伏が国民に公表された「玉音放送」を、やなせたかし氏は中国で聴いていた。その約7ヶ月後に復員船に乗り、無事に故郷の後免町に戻った。
高知新聞社に入社したのは、それから3ヶ月後の昭和21年(1946)6月である。最初こそ社会部の記者として配属されたものの、間もなく同社が創刊した「月刊 コウチ」の編集部に異動になった。そこにいたのが、編集長の青山茂さん、編集部員の品原淳次郎さんと小松暢さんである。小松暢さんは既に知られている通り、後にやなせ氏の妻になる女性だ。
創刊後しばらくして、4人揃って東京取材にいき、そこでドラマでも描かれた「おでん事件」が起きる。たった1人元気だった暢さんが、寝る間も惜しんでおでんで食あたりを起こしたやなせ氏ら3人の男性の看病をした事件だ。この事件を経てやなせ氏は暢さんへの恋心を募らせていく。
暢さんはやなせ氏いわく“美少女タイプ”で、明るく快活な性格は誰からも好かれた。童顔で可愛らしい外見、テキパキ動き、時には大胆な行動もとる……そんな暢さんに、やなせ氏はすっかり魅了されたのである。
さて、やなせ氏は暢さんより前に恋した女性とのエピソードを明かしている。その女性とはお互いに好意をもってはいたが、交際する前だったようだ。2人がデートで夜道を歩いていた時、ちょうど公園に差し掛かった。公園内では、何組ものカップルがいて、抱き合っている。すると、その女性はやなせ氏に「殺し文句を言ってほしい」と言ったのだという。ここでバシッと決めれば、女性と恋人になれる…という、恋愛において気分が盛り上がる瞬間だ。
しかし、やなせ氏の頭にはどうも「殺し文句」が浮かばない。かつて観た恋愛映画や、読んだことのある小説などからいいセリフを導き出そうとしても上手くいかない。何も言わないやなせ氏に痺れを切らした女性は「早く言ってよ」とせっつく。それでも「う、ううん……」と悩むばかり。一生懸命殺し文句を考えているうちに、最高潮に達していたムードはすっかり萎んでしまい、いつの間にか公園を抜けて街に出てしまっていた。残念ながら、大失態と言わざるを得ない。女性は「あなたっていい人だけどダメね、さよなら」と言い残して去っていったという。
そんな苦い思い出も含め、いくつかの恋を経て、やなせ氏は“運命の人”に出会ったのだった。

イメージ/イラストAC
<参考>
■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)
■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)