×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

全財産没収、江戸追放…その後の鳥山検校と瀬川のゆくえは? 全てを失った悪徳高利貸しと元花魁の末路


大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」第14回「蔦重瀬川夫婦道中」では、鳥山検校(演:市原隼人)とともに瀬以(瀬川/演:小芝風花)が捕らえられるが、情状酌量の余地ありとして厳重注意で終わった。検校は瀬以の願いを汲んで離縁を申し出る。蔦重(演:横浜流星)は、自由の身になった瀬川を今度こそ自分の妻にして一緒に書店をやらないかと誘い、2人は束の間夫婦のように過ごす。しかし、自分の存在が蔦重の夢の障害になると感じた瀬川は自ら姿を消した。今回は鳥山検校と瀬川のその後の話を取り上げる。


 

■豪遊の限りを尽くした生活から一転して罪人に……

 

 鳥山玉一は延享元年(1744年)頃の生まれといわれている。鳥山検校の詳細な記録は残っていないが、一説には安永2年(1773)に検校の位に就き、やがて当道座の大親分となったという。仮に延享元年生まれとするのであれば、30歳にしてトップに立ったことになる。音楽や鍼灸、按摩などの独占権も有しているだけでなく、高利貸しで莫大な富を築き、大富豪としても知られていた。

 

 そもそも「検校(けんぎょう)」とは、室町以降に盲人(めしい)の最高位の役職だった。江戸時代、幕府は「当道座」という組織に盲人が所属することを推奨し、自治的な運営をさせていた。これは、徳川家康が盲人を保護したことに始まるという。

 

 検校の座に就くまでには長い修行期間が必要だが、金銀による盲官位の売買も行われていたという。当道座への加入から検校の位までは73の位階があり、検校になるためには700両以上が必要だったともいわれている。要は金次第でのし上がれるシステムが出来上がっていたのである。鳥山検校も、若くして財をなし、その財によって地位を築き上げたと言えるだろう。

 

 鳥山検校の吉原通い、そして吉原での豪遊ぶりは多くの人々の顰蹙をかった。座頭金は手を出したら最後、どんどん借金が膨らんでいく。主な借り手は困窮する貧乏な旗本や御家人、財政的に苦しい状況にある大名の家などで、返済できなければ厳しい取り立てにあって土地や財産まで取り上げられたという。屋敷の前で大声で怒鳴ったりすることもあったという。

 

 そんななか、世間を賑わせたのが、鳥山検校による松葉屋の花魁・五代目瀬川の身請けである。1400両という莫大な金が動いたこの身請け話は江戸じゅうで話題になり、戯作などの格好のネタになった。

 

 鳥山検校と瀬川の結婚生活は約3年にわたって続いたが、安永7年(1778)に2人の運命は暗転する。幕府が悪徳な高利貸しらを一斉に取り締まり始めたのだ。鳥山検校もまた捕らえられ、詮議にかけられた。結果、屋敷や家財道具一式、現金20両など全財産を没収され、さらに貸していた金15000両も返済不要という沙汰になった。鳥山検校にしてみれば、莫大な貸金を踏み倒されることになったわけだ。

 

 そして鳥山検校には他の検校より重い罰が与えられ、武蔵・山城・摂津・遠江から追放処分となった。無一文で放り出されたのも同じことである。その後、鳥山検校がどこでどのように暮らしたかは知られていないが、一説にはこの処分から12年後の寛政3年(1791年)に赦免されたともいわれている。

 

 一方の瀬川はというと、噂や創作物で“後日談”が作り上げられた。ある話では、深川六間堀に住んでいた飯沼某という武家の妻になって2人の子を生み、夫と死別した後は、屋敷に出入りしていた大工の結城屋八五郎という男と再々婚した。2人の子のうち長子は家督を継ぎ、次男は放蕩した挙句にゆくあてもなく帰ってきて、髪結の仕事についた。飯沼家からの支援もあって平穏に暮らした……という。

 

 また、作中に登場した『契情買虎之巻』では、瀬川は遊女になる前に夫と死別しており、その夫によく似た五郷という男に惹かれていく。しかし、鳥山検校が金にものを言わせて強引に身請けし、さらに五郷は死んだと嘘までついて瀬川を絶望の底に叩き落す。瀬川は男児を出産して悲嘆の果てに命を落とす……というストーリーが描かれる。さらにこれを元にした物語で、その男児が敵討ちを目論むなど、鳥山検校と瀬川の物語は江戸のあちこちで、長い年月ネタにされた。

 

 とはいえ、こうした噂話や創作物であっても、瀬川がその後夜鷹などに身を落としたとか、落ちぶれて苦労の果てに行き倒れたなどという、最悪の結末が描かれなかったあたり、当時の人々も吉原の大名跡を継いで一世を風靡した気高い瀬川花魁に一定の敬意あるいは憐憫の情を抱いていたのかもしれない。

 

イメージ/イラストAC

KEYWORDS:

過去記事

歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

最新号案内

『歴史人』2025年11月号

名字と家紋の日本史

本日発売の11月号では、名字と家紋の日本史を特集。私たちの日常生活や冠婚葬祭に欠かせない名字と家紋には、どんな由来があるのか? 古墳時代にまで遡り、今日までの歴史をひもとく。戦国武将の家紋シール付録も楽しめる、必読の一冊だ。