朝ドラ『あんぱん』屋村のパンは高級品? 柳井家がいかに裕福かがわかる昭和初期の物価
朝ドラ『あんぱん』外伝no.5
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』がスタート。第1週は「人間なんてさみしいね」が放送された。5話は、朝田のぶ(演:永瀬ゆずな)をはじめとする朝田家の人々が結太郎(演:加瀬 亮)の突然の死を悼み、意気消沈するところから始まる。柳井嵩(演:木村優来)はのぶに父との最後の場面を描いた絵を見せ、事情を知った屋村草吉(演:阿部サダヲ)は朝田家にあんぱんを届けた。美味しいあんぱんを口にしたのぶや家族の心に、生きる希望が生まれた感動的なシーンである。さて、屋村のパンは1個10銭というが、実際どれくらいの価値だったのだろうか?
■“超高級”というほどではないが気軽に買える値段ではない
まず最初に、当時の物価を現在の価値に正確に置き換えることは難しく、また文献や時期、地域によっても数字が大きく異なることをお断りしておきたい。ここで取り上げる品目や価格は、あくまで一例であるということを予めご了承いただきたい。
作中では現在昭和2年(1927)だ。「高山/湯布院昭和館」が公開しているデータによると、カレーライス1杯が10~12銭で、そばも10銭程度、また嗜好品のコーヒー1杯も10銭ほどだった。1個10銭の屋村のパンとほぼ同額になる。
現在のカレーライスやそば、コーヒー1杯を仮に350~500円程度と考えると、目玉が飛び出るほどの高級品とはいえないが、日常生活で気軽に買える値段かというと悩ましい。のぶたちが暮らす田舎ならなおさらだろう。現代の我々からすると、平均的な収入があってもちょっとお高いアイスクリームやスイーツに手を出すときに一瞬躊躇う(もしくは何かあったときの自分へのご褒美)感覚に近いのかもしれない。
参考までに昭和6年(1931)の物価をみると、風船ガム1包が1銭、うなぎの蒲焼が50銭、デパートの食堂で提供されるビフテキが80銭ほどだという。さらに昭和8年(1933)には豆腐1丁が50銭、うどん1玉2銭、食パン1斤が14銭といった具合だ。
屋村が最初にパンを売り出した時、「1個10銭は高い」と釜次(演:吉田鋼太郎)や町の人々が驚くなか、「誰も買わんがやったら、私が全部いただきます」と名乗りをあげた千代子(演:戸田菜穂)。柳井家のお財布事情が垣間見えるシーンである。
ちなみに、昭和元年の「鶏肉若雌上物」は、100匁(375g)で1円47銭5厘だったという。屋村のパンとともに、その日の柳井家の夕食には鶏肉のソテーが出されていた。しかも嵩がナイフとフォーク上手に扱えずに鶏肉をすっ飛ばした後、千代子は「もう1枚焼いちゃりなさい」とあっさり言うのだ。さすがに上物とまではいかないかもしれないが、日常的にハイカラな(そして一般的には高級な)食生活をおくる柳井家がどれほど恵まれた家庭であるかというのは伝わっただろう。
<参考>
■高山/湯布院昭和館「昭和の年表」

イメージ/イラストAC