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じつは日本でも奈良時代にピラミッドがつくられていた? 千年の時を超えた「土塔」 大野寺/大阪府堺市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第18回】

 


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

なにやら門の奥にピラミッドのような物体が見える。撮影:森田季節

■紆余曲折を経つつも、いまだに残る千年以上前の塔

 

 日本にもピラミッドがあったと言うと、良識ある人からは歴史研究を無視したトンデモ説を唱えていると思われかねません。たしかに日本の古墳には方墳はありますが、きれいな四角錐(しかくすい)の形状をした本場エジプトのピラミッドみたいなものはないようです。

 

 ですが、古墳以外であればピラミッドに似た形状のものが存在します。ちなみに、変わったものがあるのは、日本最大の古墳である仁徳天皇陵こと大仙陵(だいせんりょう)古墳がある大阪府堺市です。完全な偶然ですけど、なんとなく奇縁を感じます。

 

 堺市の深井駅(ふかいえき)で降りて広い道路をまっすぐ1キロちょっと進むと、大野寺(おおのじ)という寺院に着きます。現在残っているお寺の敷地はあまり広いものでもないですし、一般の参詣客は想定されてないのか、門も閉まっています。ですが、道路を隔てた側に本来この寺院に属していたとんでもないものが残っているんです。というわけで、信号から道路を渡って、いかにも広々とした公園に入りましょう。目的のものは大きいのですぐ見えます。

 

土塔は十三層のうち十二層まで復元されている。試算によると瓦は約6万枚使われていたという。撮影:森田季節

 そこにはピラミッドの上の段を削ったようなものが! しかも、近づいてみると、瓦が表面を覆っています。さすがに瓦が新しすぎるので復元されてることはすぐわかるのですが、それでも十二分に威容を誇っています。

 

 こちら、土塔(どとう)というもので、奈良時代に行基(ぎょうき)が関わった可能性が濃厚です。現在は道路を隔てた場所にある大野寺の仏塔でした。ピラミッド状のものを塔と呼ぶ文化は日本にはなかったはずですが、公園内の復元模型を見ると、一番上部に仏塔が設置されていました(よりピラミッド的です)。たしかに土でつくった仏塔なので、土塔という名前がぴったりです。

 

公園内にある復元模型。撮影:森田季節

 平安時代に成立した『行基年譜』には大野寺は神亀4(727)年に建てられたと書いてありますが、同じ年が記された瓦が土塔から発掘されています。たんなる伝承ではなくて、一定の事実を反映していると見てよいでしょう。行基というと多数の土木事業に携わったイメージがありますが、土塔築造も一種の土木事業ですよね。土塔の瓦からは人名が刻まれたものも多くて、多くの人が参加したことがわかります。

 

 室町時代の瓦が出てきていることからもわかるように、塔は何度も補修されてきました。それでも時代の荒波に飲まれて、復元模型のようにはきれいに残りませんでした。土塔裏面はわざと復元前の雰囲気もわかるようにしている部分もありますが、そこに瓦の姿は見えません。それでも紆余曲折を経つつも、千年以上前の塔がいまだに残っているのは素晴らしいことです。21世紀に見てもインパクトがあるぐらいですから、奈良時代にこれを目にした民衆の驚きたるや、すさまじかったでしょう。

 

 この土塔、歴史的価値も非常に高いので当然のように国の史跡にも指定されています。しかし、僕が訪問した時、広い公園にいるのは犬の散歩で来ている近所の人ぐらいでした。堺市の中心部からも離れているせいか、観光地としてもあまり知られてないようです。逆に言えば、奈良時代の「ピラミッド」を好きなだけ眺められる穴場です。

 

不定期開催ですが、土塔に登るチャンスがあります。気になる方はチェックしてみてください。撮影:森田季節

 

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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