歴史を紡いできた現代の薬草〜世界のトレンドとしていま熱く注目を浴びているその効能と理由〜
エピソードで紐解く薬草の歴史【第4回】
「奈良と薬草」その歴史は1400年前に始まった。そしていま、先進医療の現場や世界トレンドであるウェルネスの世界で「薬草」がもっとも熱く、もっとも注目をあびている。なぜ「薬草」なのか。エピソードとともにその理由をひもといていこう。現在から未来へと、奈良県での活動を紹介する。

左から大和当帰、大和橘、黄檗(生薬名:オウバク)。
■現在ふたたび注目をあびる薬草の文化と知恵
奈良県における薬草の文化は過去のものなのか。答えはNOである。むしろ医療が充実した現代においてその文化や知恵はもっとも注目をあびている。その理由を世界のウェルネスの動向、また薬草の発祥地奈良県での現在の取り組みと合わせて紹介していこう。
明治の文明開花以降、西洋医学の台頭により一度は勢いを失った漢方や薬草が、現在ふたたび注目をあびている。その背景にあるのが昨今の社会情勢だ。
世界的に地震や洪水などの天災、地球温暖化、そして感染症の流行が続いた。また、少子高齢化、ストレス社会の中で問題視されているのが医療費の増大、病床の不足、生活習慣病や慢性疾患の増加だ。そこで日の目を浴びたのが『未病を癒す』を得意とする漢方や薬草である。
『未病(みびょう)』とは、病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態を意味する。日常で疲れやすい、なんとなく食欲が出ない、眠りが浅い…など思い当たる節がある方も多いのではないだろうか。

若草山山頂での医療ヨガ。心とからだの健康を高めるウェルネスツーリズムが世界中で注目されている。
■薬草が人と暮らしに寄り添い未来をつくる
漢方や薬草の知恵や素材で未病を癒すことで、病の発症リスクを下げる。そうすることで上記の社会問題解決へアプローチが可能となる。病を手術や薬によって治療する西洋医学と漢方や薬草の一番の違いは、主体は病でなく人であることだ。漢方・薬草の世界では病でなく人の心と身体を診て五感に働きかけるアプローチをし、養生する。身体だけでなく心も対象となるのも特徴だ。
こうした社会情勢を背景に、奈良県では2012年に「漢方のメッカ推進協議会」(2024年4月より「漢方推進協議会」)を発足した。県内外の会員との協力により、前段の歴史・文化的な蓄積を活かして薬草の栽培、研究、製品サービス化、販促までの一貫体制の構築に取り組んでいる。
県や大学など研究機関では、食味成分や栄養価等のデータ分析が行われ、研究結果を民間にフィードバックすることで、一事業者ではとてもできない規模の生産から販売販促までを連動させた体制づくりができるようになった。
この取り組みの中で特に栽培や製品化に力を入れている薬草が、大和当帰(やまととうき)・大和橘(やまとたちばな)・黄檗(きはだ 生薬名:オウバク)だ。
生薬として使用される他に、食薬区分上生薬に該当しない部分は食品やアロマ、化粧品、雑貨等に製品化され、暮らしへの取り入れ方と共に提案されている。また五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)を薬草など森の恵みで満たすスパやショップなどの施設も人気だ。

THERAなどの奈良発の薬草由来のブランドは都内百貨店のPOP UPでも人気に。
この様な奈良県での活動の視点は未来を向いている。薬草自体、歴史文化を知っていただき暮らしに取り入れていただくことで現在の人々を癒すことはもちろんのこと、この歴史文化や知恵を未来へ紡いでいくことを目的としている。例えば絶滅危惧種であった大和橘は地元で立ち上がった『なら橘プロジェクト推進協議会』の植樹・活用の活動等もあり、現在は“準”絶滅危惧種となっている。他の薬草も同様に、未来の森づくり・人づくりを見据えて官民が連携し活動している。
■世界トレンドのウェルネス、ここにあり

THERA漢方薬草ウェルネスツーリズムの参加者たち。ツアーの一環として奈良を代表する薬草、大和当帰の収穫する。
この様な活動を実際に見聞きしたり、現地で薬草のある時間・ライフスタイルを実際に体験したりするウェルネスツーリズム・アクティビティが人気だ。
天災・疫病・戦争等と世界が混沌とする中、平和で治安が良く自然豊かな日本へ癒しを求めて来日する外国人も増えている。世界中で注目され、今後も需要が伸びるとされている“ウェルネス“であるが、それは『自己発見・自己実現』を意味し、豊かで輝く人生(ウェルビーイング)を目標とする。身体・精神・環境・社会的な健康の上に成り立つものだ。
そのウェルネスの場所として奈良を訪れる観光客が増えている。自然との距離感を見直し、暮らし(ライフスタイル)・カルチャー・精神性に触れられる場所、奈良。自然と歴史文化を守り、進化させながらも日々暮らす奈良の人達がいつでもこの地でウェルネスを追求するみなさんを待っている。ようこそ、ウェルネスの聖地奈良へ。