×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

「関ヶ原の鬼神」と恐れられた闘将【島左近】 ─石田三成の家臣ではもったいないとまでいわしめた男─【知っているようで知らない戦国武将】

知っているようで意外に知らない「あの」戦国武将たち【第6回】


「三成に過ぎたるものが2つあり 島の左近と佐和山の城」とは、島左近(しまさこん)がいかなる武将だったのかを一言で感じ取れる言葉だ。ここでは島左近の生涯をご紹介。


島左近(東京都立中央図書館蔵)

 戦国時代の上方で「治部少輔に過ぎたるものが二つあり、島の左近と佐和山の城」という俗謡が謳(うた)われたという。その意味は「石田三成には、もったいものが2つある。それは三成の家老・島左近と居城の佐和山城だ」という意味であり、半分は他の武将たちのやっかみであり、半分は羨望であった。佐和山城は名城として知られ、島左近はその名声が知れ渡っていたからである。

 

 大和国(奈良県)生まれの左近は、大和椿井(つばい)城主・島豊前守の息子といわれる。同じ大和の大名・筒井順慶(つついじゅんけい)の子・定次(さだつぐ)に家老として仕えるが、定次に愛想をつかして出奔する。その後は、豊臣秀長やその子・秀保(ひでやす)に仕えるが、秀保の死によって浪人する。それまでには、いくつかの合戦で武功を立て、秀吉の朝鮮出兵(文禄・慶長の役)でも手柄を立てている。左近は、もう仕官する気持もなく、出家まで考えていた。こんな話が伝わる。

 

 そんな折に近江・水口4万石の大名となった三成(みつなり)は、左近をどうしても自分の家老として召し抱えたいと思った。それも尋常な思いではなく、何が何でも召し抱えたい、という深い思い入れであった。この三成の必死の説得にも応じようとしない左近に、三成は「我が禄高4万石の半分、2万石で召し抱えたい」とまで言うのであった。

 

 自分の石高の半分を割いても、仕官させたいという三成の心意気に、さすがの左近も感動して「では、1万5千石で仕えましょう」と応諾した、というのだ。だが、この話は事実ではないと思われる。というのも、三成が水口城主となったこの時点では、まだ左近は筒井家に仕えていたはずだからである。しかしながら、そんな逸話が生まれるほど、三成の人と成り、左近の評価を裏付ける目安になるエピソードであろう。

 

 信頼に値する人物と認めた三成に、左近は忠節を尽くす。だが、その一方で三成の言動を諫める役割も果たした。2人は人三脚で秀吉に尽くし、豊臣家内で重要な位置を得るようになった。

 

 そして秀吉没後、天下を目指す徳川家康と豊臣家を守ろうとする三成が、いずれにしても衝突する時が来ることを予感した左近は、家康排除を画策するが、すべて実ることがなかった。やがて「関ヶ原合戦」である。

関ヶ原古戦場 島左近陣跡

  慶長5年(1600)9月15日、左近はこの日、兜には朱色の天衝き、溜塗(ためぬ)りの桶革胴(おけがわどう)の鎧に浅黄色の木綿羽織。黒塗りの長柄槍を右手に持ち、すっくと立ったまま下知する姿は、遠目にも「鬼神」のように映った。押しては引く、引いては押す激戦の最中、疲弊した東軍・黒田隊の全面に出た左近は騎馬で先頭に立った。黒田長政(くろだながまさ)は、選りすぐった歴戦の勇者を島隊にぶつけた。左近は、馬上からの槍で5人までを討ち取り、縦横無尽に走り回ってから、三成の本陣・笹尾山の柵内に戻った。「島左近勝猛、ここにあり」石田本陣から一斉に合唱が湧く。

 

 黒田勢の生存者たちは、ずっと後になってからも「その時の島左近」について、甲冑から戦いぶりまで尋ねられても、何も思い出せず「ただただ鬼のような働きぶりのみが脳裏にある」という答であったという。

 

 関ヶ原合戦の後、左近の行方は杳(よう)として知れない。討ち死にしたと言う者もいれば、生き延びたと言う者もいる。まさに鬼神、謎の武将ではある。

KEYWORDS:

過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

最新号案内

『歴史人』2025年11月号

名字と家紋の日本史

本日発売の11月号では、名字と家紋の日本史を特集。私たちの日常生活や冠婚葬祭に欠かせない名字と家紋には、どんな由来があるのか? 古墳時代にまで遡り、今日までの歴史をひもとく。戦国武将の家紋シール付録も楽しめる、必読の一冊だ。