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江戸の若い娘のことを「新造(しんぞう・しんぞ)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語63


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■新造(しんぞう・しんぞ)

 

 複数の意味がある。

 

①下級武士や、富裕な町人の妻の敬称。話し言葉では、「ご新造(しんぞ)さま」や「ご新造(しんぞ)」さん」と呼びかけた。

 

②若い娘のこと。

 

③吉原の下級遊女のこと。宝暦期以降の吉原では、遊女は上級の花魁(おいらん)と下級の新造(しんぞう)に大別された。

 

【図1】は、新造(若い娘)である。

 

【図2】は、吉原の遊女。中央が花魁、左右のふたりが新造。女の子は禿(かむろ)。

 

【図1】新造、若い娘。(『会本妃多智男比』喜多川歌麿、寛政七年、国際日本文化研究センター蔵)


【図2】花魁、新造、禿。(『笑本柳巷拾開花』喜多川月麿、国際日本文化研究センター蔵)

 

【用例】

①春本『風流三代枕』(菊川秀信、明和二年)

 

 商家の奉公人同士。片隅でしていると、主人の女房が呼ぶ声がする。

 

男「それ、よいか。おお、いく」
女「これ悪いこと、ああ、よい。あれ、ご新造(しんぞ)さまがお呼び、ああ、お呼び、ああ、もう、いっそ、いきやすよ、それそれ」

 

「ご新造さま」は、主人の女房のこと。現代では「奥さま」に当たろう。

 

 女は快感で、わけのわからないことを口走っている。

 

②戯作『古今吉原大全』(明和五年)

 

 幼いころに吉原に売られた子は、禿として姉女郎に従い、雑用を勤める。十三、四歳で新造となり、初潮を終えると、客を取り始める。

 

 五、六歳、あるいは七、八歳より、この里へきたりて、姉女郎に従い、十三、四歳にもなれば、姉女郎のみはからいにて、新造(しんぞう)に出すなり。

 

「この里」とは、吉原のこと。

 

③春本『番枕陸之翠』(勝川春章、安永五年頃)

 

 主人が、奉公人の女に手を出す。

 

「ご新造(しんぞ)さまに知れたら、大事でござりましょう」
「女房がやかましく言うと追い出して、おのしを女房にするわ」

 

「ご新造さま」は、主人の女房。

 

④春本『好色図会十二候』(勝川春潮、天明八年頃)

 

 商家の後家が芝居に出かけたおり、芝居茶屋の二階座敷で丁稚と楽しむ。

 

女「おのしがような可愛い者はない」
男「ご新造さま、ありがとうございます。しかし、もちっと静かになさりまし。下へ聞こえましょう」

 

 この「ご新造さま」は、奉公人が女主人に向かって言っている。現代では「奥さま」だろうか。

 

 後家は、よがり声が大きいようだ。丁稚は気が気でない。

 

⑤春本『閨の友月の白玉』(歌川貞升、天保年間)

 

 按摩が女の腰を揉みながら、興奮して困ると言った。女が言う、

 

「なに、わたしのような婆ぁを。そりゃあ、十七、八の新造でも、お揉みなら、そうだろうねえ」

 

 この新造は、若い娘の意味である。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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