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陰部が無毛な江戸の女性のことを「土器(かわらけ)」といった【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語62


江戸で話されていた色事、性事に関する言葉を紹介。今とは異なる言葉での表現は知れば知るほど、興味が深まる言葉ばかり。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■「土器(かわらけ)」

 

 成人の女の、陰部の無毛症のこと。発毛以前の少女の陰部をさすこともある。

 

【図】土器の女(『新童児往来万世宝鑑』月岡雪鼎、国際日本文化研究センター蔵)

 

①春本『逸著聞集』(山岡俊明著、安永初期)

 

 男たちが酒を呑みながら、つび(女性器)の品評をしているところに、有時(ありとき)という好色な男が来て、言った。

 

「世にかわらけといえるは、最第一に申し候(そうろう)」

 

 有時は、かわらけが最上と言い放ったのである。経験にもとづく評価だろうか。

 

 

②春本『新童児往来万世宝鑑』(月岡雪鼎)

 

 熟睡している女に、男がそっと近寄り、

 

 そろそろ湯文字一重(ひとえ)をまくり見るに、饅頭二つ合わせたる肉(しし)あんばいに、毛はとんとなく土器(かわらけ)なる体(てい)見るより、いよいよこたえられず、

 

「肉あんばい」は、肉付きのこと。

 

 女が土器なのを見て、男の興奮はいっそう高まったのである。

 

 

③春本『おつもり盃』(歌川豊国・国虎、文政九年)

 

 家伝の毛はえ薬を売る店に、男が来て言う。

 

「おい、かみさん、ここへも、ひと包み、ください。わしが娘は今年、十七になりますが、まだかわらけで困りますから、ぼぼの毛もはえましょうかの」

 

 毛はえ薬は頭髪用である。娘の陰毛用に、毛はえ薬を買うのがおかしい。

 

 

④春本『色道禁秘抄』(西村定雅著、天保五年)

 

 かわらけの女は縁起が悪いとされた。

 

 世俗、不毛(かわらけ)の女に交われば勝負まけすると称して、武家などには甚だ忌む事なり。

 

 武士のあいだに、戦陣におもむくとき女の陰毛を身に着けていると矢玉にあたらぬという迷信があった。そのため、かわらけの女は縁起が悪いとされたようだ。

 

 不毛を「かわらけ」と読ませている。

 

 

⑤春本『東名所二十八景』(歌川国盛二代、文久元年頃)

 

 手無開(けなしつび)は俗にかわらけと言う。いまだ少女(おとめ)の毛の生えざるにあらず。年増になりても、いっこう毛の生えぬ者、ままあり。

 

 開を「つび」と読ませている。

 

 成長しても陰毛がはえない女が時々いる、と。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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