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日本軍首脳部の思惑違いが生んだ悲劇!ミッドウェー海戦はどうして決行されたのか!?

国民に大きな影響力を発揮した雑誌『写真週報』から読み解く戦時下【第10回】


開戦前、誰もが予測しなかった空母機動部隊の大活躍。まさしく無敵の存在と言ってよいほど、アメリカやイギリスの艦艇を撃沈。それは大きな自信となったと同時に「英米恐れるに足らず」という慢心を生み出してしまう。


1942年7月29日号の表紙は、戦いに勝つためには国民すべてが身体を鍛えなければならない。ほとんど1冊丸ごと、身体の鍛錬を推奨する特集が組まれている。

 前回、日本海軍がミッドウェー島攻略と、米空母機動部隊殲滅という目標を掲げ、未曾有の大作戦に踏み切ったことについて、ごく簡単に触れている。“簡単に”というのも『写真週報』では、ミッドウェー作戦についての記述は見当たらないからである。代わりに、ミッドウェー作戦と並行して行われた、アリューシャン西部諸島攻略については、3回に渡って紹介。そこで今回は、日本海軍にとって大きな転換点となったミッドウェー海戦に至る経緯を、少し詳しく触れておきたい。

中面では戦時下でも逞しく身体を鍛える婦人たちの様子が紹介されている。この時代、女性の水着姿が掲載されるのは珍しい。その代わり、ミッドウェーでの戦いは伏せられた。

 開戦当初から、海軍の作戦を主導してきた山本五十六(やまもといそろく)連合艦隊司令長官は、真珠湾で米空母を撃ち漏らしたことで、米機動部隊の反撃を警戒していた。実際アメリカ軍は、昭和17年(1942)の2月1日、ギルバート諸島とマーシャル諸島の日本軍に対して、使用可能な空母を使ってヒット&アウェイ方式の航空攻撃を行っている。

 

 これを受け山本長官は、連合艦隊独自の構想であったハワイ攻略に備えるために、ミッドウェー島を攻略し、迎撃に出てきた米機動部隊を一挙に叩く作戦を提案。だがこの作戦は、陸海軍が合意したアメリカとオーストラリアを分断する目的の、FS作戦(フィジー、サモア諸島の攻略)と対立する。

 

 山本長官はつねづね「米豪交通遮断程度では手ぬるい」と考えていた。彼の構想は「劣勢な日本海軍が米海軍に対し優位に立つには、奇襲による積極的な作戦を行い、その後も攻勢を維持し続け、相手の戦意を喪失させるしかない」というものであった。反対する軍令部に、山本長官は「受け入れられなければ連合艦隊司令長官を辞任する」という、奥の手を持ち出し、4月5日に納得させた。

 

 まさにタイミングを測ったかのように4月18日、16機のアメリカ陸軍B-25B爆撃機による日本本土初空襲が起きたのである。狙われたのは東京、川崎、横須賀、名古屋、四日市、神戸といった主要都市で、いずれも被害はごく僅か。だが連合艦隊首脳部は冷や水を浴びせかけられた気分であった。

 

 この爆撃機は空母ホーネットに搭載され、東京から約1200km東方の海上まで進出。そこで日本各地に向け発進した。空母はすぐさま反転帰港し、爆撃機は空襲後、中国やソビエト領内へと向かっている。この空襲は山本長官だけでなく連合艦隊首脳部に、米空母部隊を完全に殲滅しておく必要性を痛感させた。そこでミッドウェー攻略作戦が、俄然重要視されるようになる。

ヨークタウン級航空母艦の3番艦ホーネット。1938年にワシントン軍縮条約が失効したことから、アメリカも海軍増強を推進。日本との戦いが始まる直前の、1941年10月20日に就役。

 前回も触れた通り、山本長官ら首脳部はミッドウェー島を攻略すれば、必ず米空母機動部隊がやって来る。それを一気に撃滅する、という思惑を抱いていた。しかし機動部隊を預かる南雲(なぐも)司令官は、あくまで「ミッドウェーおよびアリューシャン諸島西部要地を攻略」という、当初の命令遵守を考えていた。

 

 連合艦隊首脳の考えは、まさしく「二兎を追う」もので、しかも現場への指示が徹底していなかった。これでは戦う前から勝敗は決まっていたと言ってもいいだろう。

 

 一方のアメリカ軍は、新たにレイモンド・スプルーアンス少将が司令官に着任。日本の空母部隊に決戦を挑む、という目的だけを掲げていた。その目的は、末端の兵士まで十分に理解していたのである。こうして運命の6月5日を迎えた。結果は、日本海軍の惨敗、開戦以来活躍していた空母4隻を、一気に失ってしまったのである。

ノースアメリカン社が開発した爆撃機B-25B。日本空襲に向かうため、空母ホーネットの甲板に並んだ様子。陸軍航空軍だけでなく、海軍でも運用され、約1万機が生産された。

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野田 伊豆守のだ いずのかみ

1960年生まれ、東京都出身。日本大学藝術学部卒業後、出版社勤務を経てフリーライター・フリー編集者に。歴史、旅行、鉄道、アウトドアなどの分野を中心に雑誌、書籍で活躍。主な著書に、『語り継ぎたい戦争の真実 太平洋戦争のすべて』(サンエイ新書)、『旧街道を歩く』(交通新聞社)、『各駅停車の旅』(交通タイムス社)など。最新刊は『蒸気機関車大図鑑』(小学館)。

 

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