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中国で途絶えた「魚を生で食べる文化」が、日本では続いた理由。職人たちの「スゴい衛生管理」とは

世界の中の日本人・海外の反応

 

■料理人が持っていた「お清め」の観念

 

 考えうるのは日本が真水の質と量に恵まれ、鍛冶技術にも大きく秀でていた点である。魚の身を傷めることなく、きれいに捌ける包丁の存在。豊富な水を背景としたお浄めの観念が料理人の間で広く長く共有されてきたことなどが挙げられよう。

 

 お浄めの観念はヨーロッパのキリスト教文化にも存在したが、それは聖職者の祈りにより聖水と認定されただけで、科学的にも清潔であったわけではない。信者の額を濡らすとか、頭に数滴垂らす分には問題ないが、一度煮沸させないことには飲用に適さず、ほとんどの国や地域で絶対量も少なかったから、近代科学が登場するまで、王室や富裕層の間でも、厳格な衛生観念が共有されることもなかった。

 

 日本でも食中毒が頻発していたら、魚を生で食べる習慣は絶滅していたはず。そうはならず、ワサビと醤油という最高の組み合わせが誕生するまで、魚を生で食べる習慣は途絶えなかった。

 

 美食へのあくなき欲望に加え、漁師や仲買人による丁寧な扱い、料理人の間で受け継がれた衛生観念。これら条件が兼ね合わさったからこそ、世界でも稀な食文化が生まれ、保たれてもきたのだろう。

 

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過去記事

島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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