ヒグマの牙に「人間の髪」が挟まっていた… 2人が死亡、3人が負傷した「風不死岳事件」とは
歴史に学ぶ熊害・獣害
風邪不死岳(ふっぷしだけ)は、北海道千歳市に位地する、標高1,102mの成層火山である。「ふっぷし」とは、アイヌの言葉で「トドマツのあるところ」という意味で、かつてはトドマツの林があった。登山者もそれなりにいる山だ。
この山では全域でヒグマの出没が確認されており、人身被害も起きている。昭和51年(1976)に起きた「風不死岳事件」が有名だ。
同年の6月4日午後、青森県の男性Aが、仲間5人と共に9合目付近でチシマザサ(ネマガリダケ)の伐採作業に従事していた。すると、作業中に突然背後からヒグマに襲われたのである。Aは咄嗟に持っていたナタで反撃。仲間も駆けつけて道具を振り回し、ヒグマがひるんだ隙にAを救出した。その後、Aは病院に搬送され、治療を受けている。
翌5日の午前、今度は風不死岳の麓の山林で山菜採りをしていた男性Bが、ヒグマに遭遇した(前述のヒグマと推定されている)。Bは逃げようとしたがつまずいて転倒し、ヒグマに噛みつかれてしまった。一緒にいた親戚の男Cが木を激しくゆするなどしてヒグマを追い払おうと試み、Bを救う。Bも全治2ヶ月という大けがを負ったが、命に別条はなかった。この日は前日の事件もあって、早朝から猟師らが山に入り、パトロールをしていたという。
連日の人身被害をうけて、風不死岳にはヒグマ出没警報が出され、入山しないよう呼びかけることになった。ところが同月9日、道内在住の4家族、計11人がタケノコなどを採るために入山。それぞれが散らばって作業をした。その後、昼過ぎに決めてあった通り集合したものの、58歳の男性D、54歳の男性E、そして26歳の男性Fが姿を現さなかった。心配した家族は、3人を探すために山に戻る。
まず発見されたのはFで、血塗れの状態だったという。重傷だったが迅速に搬送されたこともあって一命をとりとめた。家族からの通報を受けて、県警や猟師らがDとEの捜索を開始。その結果、EはFが倒れていた地点から約15m離れた場所で発見された。
急いで救出に向かおうとした面々の前に、突然ヒグマが現れた。居合わせた猟師が即座に一斉射撃を行い、ヒグマは射殺された。しかし、Eは後頭部と両足を噛まれて既に死亡していたという。さらに、そこから50mほど離れた場所でDも発見されたが、こちらも既に亡くなっていた。体は損傷が激しく、凄惨な現場だったという。射殺されたヒグマは体長約1.7m、体重約200kgの雌で、「牙の間に人間の髪の毛が挟まっていた」と北海道新聞に報じられた。
その翌日から国道に検問所が設けられ、山菜やタケノコ採りなどを目的とする入山を禁止する措置がとられたが、結果的に2人が死亡、3人が負傷するという事件になってしまった。

風不死岳の登山道
<参考>
■鍛治英介『川と湖のカムイたち : 北海道釣り行脚』
■斎藤禎男『ヒグマ 身近になったその生態』