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復元か現状維持か? 古墳の保存と活用方法を考える 

[入門]古墳と文献史学から読み解く!大王・豪族の古代史 #079


樹木に覆われた小山のような古墳が各地にある。特に大型前方後円墳は周濠(しゅうごう)の中にこんもりと茂った大木に覆われていて、まるで丘のようだ。各地にはさまざまな方法で保存されている古墳があるが、それぞれにどういうメリットがあるのだろうか?


 

古墳はスタイリッシュなランドマークだった

兵庫県神戸市西部の沿岸部に威容を見せる五色塚古墳。4世紀後半に建造され、葺石は淡路島から運んだと考えられている。巨大なビルのようでもある。(柏木宏之撮影)

 古墳はいうまでもなく人工物です。自然の地形をうまく利用したりしますが、平地に造営される大型の前方後円墳などは周濠を掘り下げて、その土で本体の墳丘(ふんきゅう)を盛り上げて築造します。大体は三段に盛り上げて、見上げるような墳丘を造ります。そして無数の葺石(ふきいし)で全体を覆い、各段のテラスには円筒埴輪(えんとうはにわ)が隙間なく並べられます。さらに祭祀場には、形象埴輪(けいしょうはにわ)がジオラマのように並べられるのです。

 

 つまり、完成時の古墳には草木一本生えていません。実にシャープな輪郭の、雄大な人工物なのです。古墳時代の人には巨大なビルディングのような印象があったかもしれませんし、その被葬者や一族の大権力を近隣や後世にまで誇示するに十分な威容を見せつけたはずです。しかし、1500年も時代が過ぎれば古墳は雑木に覆われ、往時のきらびやかな本体は森の中に隠されてしまいます。

 

 私がよく例に挙げる大阪府高槻市の「今城塚(いましろづか)古墳」は、江戸時代に継体(けいたい)天皇陵と認定されませんでした。それは西暦1596年9月5日(旧暦閏7月13日)に発生した慶長伏見大地震で、直下を走る安威(あい)断層の直撃を受けて巨大で立派だった墳丘が大きく崩れ落ちたためでした。

 

 とても天皇陵とはいえないみすぼらしい姿に変わってしまったために、継体天皇陵は時代の合わない、西隣の茨木市にある「太田茶臼山古墳」だとされているのです。ただし天皇陵とされなかったおかげで、6世紀初めの巨大前方後円墳のすべてが調査できました。

 

 そして高槻市は、この今城塚古墳を市民のために歴史公園化しようと考えたわけです。その時に、「地震で崩れる前の雄大な墳丘を再現しよう」というプランもあったそうですが、「大きな直下型地震で墳丘が崩れてしまったその姿も、この古墳の来歴を正確に表している」として、墳丘の再現は見送られ、被災したそのままの姿で現在も管理されています。

 

 古墳のような大きな文化財をいかに維持して展示するかにはさまざまな考え方がありますし、宮内庁管理の陵(みささぎ)は調査すら許されず、現状維持で立ち入り禁止です。しかしそのほかの古墳は財政が許す限り、さまざまな維持管理、または展示がされています。

 

 

小規模でも風格を見せる古墳を訪ねて

 

 先日、久しぶりに兵庫県最大の前方後円墳である「五色塚(ごしきづか)古墳」に行ってみました。この古墳は、全国で最初に完成当時を再現した古墳として整備されています。

兵庫県神戸市にある五色塚古墳。国の史跡に指定されており、出土品は国の重要文化財、神戸市指定有形文化財となっている。(柏木宏之撮影)

 すると、巨大な「大仙古墳/伝仁徳(にんとく)天皇陵」や「誉田御廟山(こんだごびょうやま)古墳/伝応神(おうじん)天皇陵」であっても「雑木に覆われた緑の丘」という印象を受けますが、墳丘長194m、三段後円部の高さ18.8mで全体を葺石で覆って再現された五色塚古墳は、はるかに小さいにもかかわらず実に雄大で巨大な人工の構造物として迫力を見せつけます。

 

 雑木を刈って完成当時の姿に再現するのか、現状をそのままにしておくのか? この相反する方法には、どちらにもメリットがあるといえるでしょう。そのままに維持するのであれば、貴重な埋蔵文化財の散逸を防ぎ、後世に残すことができるでしょう。調査をして整備し直して完成時の威容を見せるなら、見る人に圧倒的な迫力と現実感を与えることができます。

 

 どの古墳にもそれぞれのメリットとデメリットを考慮して、維持管理、または展示をする必要があります。ただ、台風などの被害で倒木があってもそのままにしておくのは、墳丘破壊のデメリットが大きいと私は考えます。みなさんはどうお考えになりますか?

 

すぐそこに明石海峡大橋が見え、目の前には淡路島。いまも行きかう船舶にその威容を見せつけている。4世紀後半の最新土木技術で築造された前方後円墳と現代の最新技術で架けられた海峡大橋が一枚の写真に納まる奇跡のビューポイントともいえる。(柏木宏之撮影)

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柏木 宏之(かしわぎ ひろゆき)
柏木 宏之かしわぎ ひろゆき

1958年生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒業。1983年から2023年まで放送アナウンサー、ニュース、演芸、バラエティ、情報、ワイドショー、ラジオパーソナリティ、歴史番組を数多く担当。現在はフリーアナウンサーと同時に武庫川学院文学部非常勤講師を務め、社会人歴史研究会「まほろば総研」を主宰。2010年、奈良大学通信教育部文化財歴史学科卒業学芸員資格取得。専門分野は古代史。歴史物語を執筆中。

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