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真珠湾攻撃のモチーフとなった「タラント空襲」と航空主兵主義の台頭

アメリカ太平洋艦隊の一大根拠地を叩いた奇襲作戦にまつわる航空エピソード【第1回】


太平洋戦争は日本軍の「真珠湾攻撃」ではじまった。戦史上まれにみる奇襲攻撃であったこの作戦を、戦術、指揮官、兵器などさまざま視点から解き明かしていく。第1回は「真珠湾攻撃」のモチーフとなったある作戦に迫る!


 

タラント空襲に用いられたフェアリー・ソードフィッシュ艦上攻撃機。ご覧の通りいかにも古色蒼然とした外観だが、のちには優秀な機上レーダーを装備しロケット弾なども搭載して第二次大戦末期まで活躍した。写真では航空魚雷を抱えている。

 時に、あえて下卑(げび)た表現を好んで用いたイギリス首相ウィンストン・チャーチルが「ヨーロッパの下腹部」と称したイタリア半島は、その形状から、しばしば地中海に突き出したヒール付き女性用ブーツにも擬(なぞら)えられる。この「イタリアン・ブーツ」のヒールの部分の内側に、イタリア海軍の南部方面における一大根拠地タラント軍港が所在し、強力な水上戦闘艦部隊の母港となっていた。

 

 そこでイギリス海軍は1940111112日にかけての真夜中、空母イラストリアスからフェアリー・ソードフィッシュ艦上攻撃機22機を発艦させ、夜間の奇襲攻撃によって戦艦3隻を大破着底(うち1隻は終戦まで修理できず)、重巡洋艦1隻と駆逐艦1隻をそれぞれ小破させるという、わずかな出撃機数に比して大きな戦果を得た。世界海軍航空戦史にその名を残す「ジャッジメント」作戦である。

 

 しかも、出撃機数が少ないというだけではない。当時、すでに日本海軍航空隊は97式艦上攻撃機、アメリカ海軍航空隊もダグラスTBD デヴァステイター艦上攻撃機という、全金属製で引込脚(ただし97式の一部の型式は固定脚)を備えた近代的な艦攻を運用していた。ところが「ジャッジメント」作戦で主力を担ったイギリス海軍航空隊のソードフィッシュは、使い勝手こそ良好ながら、第一次世界大戦時の航空機のような複葉で固定脚を備えた、時代錯誤も甚だしい機体であった。にもかかわらず、これほどの戦果をあげたのである。

 

 かくして、それまでの世界の海軍の運用思想を支配していた大艦巨砲主義、つまり「でかい大砲」を積んで「分厚い装甲」を備える「頑丈な戦艦」を多数揃え、敵の「ご同輩」とガチンコの撃ち合いをはたして撃滅するという考え方は、艦砲の射程距離のはるか彼方で発艦した艦上機を用いて、空から敵艦隊を叩きのめすという航空主兵主義の前に完全に崩壊。海洋を支配する主力艦の地位は、巨砲を装備した堅固な防御を誇る巨大戦艦から、できるだけたくさんの艦上機を搭載できることが最優先の命題である、いわば「浮かぶ航空基地」たる航空母艦へとバトンタッチされることとなった。

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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