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激戦を生き抜いた零戦虎徹「岩本徹三」と「零式艦上戦闘機」(A6Mシリーズ後期型)

祖国の栄光を担った「蒼空の武人」とその乗機 第7回


日中戦争から太平洋戦争の終戦までを戦い抜いた岩本徹三(いわもとてつぞう)。ドッグファイトからヒット・アンド・アウェーまで、日本軍パイロットには珍しく多用な戦法を駆使し、海軍屈指の撃墜王となった。岩本の戦歴とともに、愛機・零戦の技術的変遷を追う。


 

自ら「零戦虎徹」を名乗った岩本徹三。勇猛な名乗りとは違って優しげな風貌の持ち主であった。終戦時はポツダム中尉。天性の戦闘機乗りと称賛されたが1955年5月20日に病没。38歳での早逝だった。

 太平洋戦争の開戦直後は、列強の戦闘機も零戦と同格の1000馬力級エンジンを搭載しており、零戦のように極端に防御力を犠牲にして他の性能を向上させる設計はされていなかった。しかも日本海軍パイロットの練度の高さがそれに加わって、「戦闘機としての優れた特性」と「パイロットの優れた腕」の相乗効果で、まさにゼロ戦を「世界の最強戦闘機」としていた。

 

 ところが、うち続く激戦でベテラン・パイロットが次々と失われ、アメリカが2000馬力級エンジンを搭載した戦闘機を投入しだした戦争中期以降、零戦の優位は急速に失われた。空戦技も、そのために零戦が開発されたといってもよい第1次大戦以来のドッグファイト(格闘戦)から、大馬力エンジンの高速性を生かしたヒット・アンド・アウェー(一撃離脱戦)へと変化し、空戦の主導権は「有利と見れば襲い、不利と見れば逃げられる」2000馬力級エンジンを搭載して防御力にも優れた敵戦闘機が握るようになり、ゼロ戦得意の運動性能だけでは後手に回らざるを得なかった。

 

 このような敵に主導権を握られた空戦では、零戦も逃げ切れずに被弾するようになったが、元来が防御力皆無に等しい本機は、被弾すればたやすく炎上墜落することになった。

 

 しかし後継機の開発は進捗しなかった。そこで1943年中頃から、エンジン出力を200馬力ほど強化し、エンジンの排気管をそれまでの集合排気管に代えて、排気ガスを機体を推し進める力に利用する推力式単排気管を採用。翼内燃料タンクに自動消火装置を備えることで、速度性能と防御力の向上を図った零戦五二型シリーズの生産が始まった。

 

 これに加えて、五二型をベースに胴体下部の増槽懸吊架(ぞうそうけんちょうか)に増槽だけでなく250kg爆弾を搭載できるようにした、戦闘爆撃機型の零戦六二型も造られた。鈍重な艦上爆撃機では、敵の艦上戦闘機に撃墜されてしまい敵艦隊まで到達できないことが多くなったため、軽快な零戦に爆弾を搭載した「戦爆」として運用することが考えられたのである。なお、これら爆装できる零戦は神風攻撃の体当たり機としても用いられた。

 

 零戦を駆って戦った日本の撃墜王のひとりに、「零戦虎徹」の異名で知られた岩本徹三がいる。日中戦争から太平洋戦争の終戦までを戦い抜き、正確な撃墜機数は不明ながら、自己申告で202機、推察では80機撃墜ともいわれる。

 

 岩本はドッグファイトの腕も抜群だったが、特に戦争中盤以降はあえてヒット・アンド・アウェーを多用。また、信頼性の低い機上無線を巧みに使いこなして、欧米のような列機をともなう編隊空戦を得意とした。

 

5倍や10倍ほどの敵など恐くない。しかしエンジン故障だけはどうしようもない」

 

「敵機は目で見るものではない。感じるものだ」

 

「こびず、へつらわず、とらわれず」

 

 といった名言を、岩本は上司、同僚、部下らに語っている。

 

「戦闘機乗りになるために生まれてきたような男だった」とは、ある元上司が彼の葬儀の際に語った言葉だという。


零戦五二型。零戦シリーズの後期型で性能向上型だったが、アメリカの2000馬力級エンジン搭載の戦闘機に苦戦を強いられた。神風特別攻撃隊でも多用された。

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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