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戦国時代、武将たちはどのような正月を過ごしていたのか?─正月の歴史─

年中行事の昔


読者の皆様は、お正月をどのようにお過ごしだろうか? 家族や友人たちと集まってご馳走を食べたり、お正月遊びに興じたりする人も多いだろう。忙しさもありながら、穏やかな時間を過ごすことの多いお正月。ここでは昔の人はどのように正月を過ごしていたのか? とくに普段は戦に明け暮れ、群雄割拠の時代を生きた戦国武将たちは、どのような正月を過ごしていたのか、紹介する。


 

■戦いで明け暮れた戦国の世でも正月は華やかな行事や遊びで遊行していた

 

織田信長
荒れ狂う天下人も正月は風靡な時間を過ごしたことが記録に残されている。

 

 天下統一をかかげ、戦国の世に覇を唱えた織田信長。その正月の姿が『信長公記』の天正6年の項に記されている。近しい人間に茶を振る舞い、席に列した者と親睦を深めるために、座敷の装飾に工夫を凝らし、ともに一服を楽しむ空間を演出した、とある。茶の湯の席に列したのは滝川一益、細川藤孝、明智光秀、荒木村重ら茶道の世界でも名を馳せた者らで、なかには羽柴秀吉の名も見えた。

 

 茶会後、信長公は、出仕した面々に、自らの座所を披露した。恐れ多くも豪華絢爛な間は、人々を魅了し、計り知れぬ威光を放っていたようである。自身にて全員に、雑煮や唐物の菓子を供し、参集した者たちにとっては、末代まで語り継ぐべき思い出となっただろう。

 

 また、戦国を生きる武将とはいえ、家人たちは常に戦に出ていたわけではない。現代の世と同様、正月に相応しい遊びにも興じていたようだ。

 

 例えばそれは「羽付き」であり、昔から羽子板を使った打ち合いは、人々に人気だったという。

 

江戸時代の大奥
大奥でも羽根つきは親しまれた遊びでひとつであり、優雅な時間を過ごしたに違いない。(「千代田之大奥 追ひ羽根」東京都立中央図書館蔵)

 

 その他、「独楽回し」や「雙六(すごろく)」についても、当時の時代で流行っていたようである。近代では、子どもの遊びという色が強いが、その昔も同様に、童の心を掴んでいたであろうか。享楽の道具が今より少ない背景から、費やした時間は多いやも知れない。

 

 徳島県板野郡藍住町勝瑞の地にある勝瑞城館跡からは、羽子板、独楽、雙六などが発掘されている。現在とほぼ変わらない形であるそれら遊具は、当時の遊戯を忍ばせるところであり、明確な証拠として、我々の前に姿を見せてくれている。

 

 ただし、雙六については、盤上で行われたことから、博打の一種、即ち大人の遊びという側面もあったようである。賽の目を丼茶碗の中で転がして、賭け事に興じた時代もあったことから、賽子を使用する雙六は、博打的要素が強かったことが伺える。

 

 なお、勝瑞城館跡は、その他にも多々出土品を擁している。学問、催事、戦から、日常生活に密接に関わる衣食住関連まで、多種多様な発掘品を見ることができる。そもそもが、戦国大名である三好氏の居館跡と推定される遺跡であり、戦国の正月を知る上でも貴重な情報の宝庫である。一見の価値はあるだろう。

 

 江戸時代に目を移すと、羽根突きや独楽回しは健在のようだが、競技の色が強い遊びも盛んであったようだ。平和な時代だからこそ、人々が楽しむことを許されたのかもしれないが、その代表格である「打毬(だきゅう)」は、正月の時期に目出度い遊戯として認識されていた。

 

 打毬は、奈良、平安時代には,端午の節会の際に行われる、宮中の年中行事とされていた。鎌倉時代以降は一旦衰退したが、江戸時代に至り、暴れん坊将軍としても知られる8代将軍・徳川吉宗(とくがわよしむね)が、騎戦を練習する武技としてこれを推奨した。

 

打毬
将軍が打毬を見学する様子を描いた絵。将軍が観覧するほど打毬は流行した行事であった。(『千代田之御表 打毬上覧』国立国会図書館蔵)

 

 形態としては、紅白2組、各4~10騎の間で行われる団体戦である。各組の競技者が乗馬し、地上に置かれた自組の色の毬たまを、網の付いた毬杖と呼ばれる棒ですくい、競い合いつつ毬門に投げ入れる。生と死に頭を悩ませられない時代ならではの、優雅さを感じる行事である。

 

 興じる人が増えるにつれ、新しい競技方法も編み出され、江戸の地以外の地方においても、盛んに行われるようになった。我が国において、宮内庁の主馬班に、江戸の中期頃、最盛期における様式の打毬が保存されている。

 

 この様に、戦国の乱世、もしくは江戸の世における正月は、遊びという観点ではさほど現代と変わりがないようであるが、過去の遺物から、ある程度の時代背景を表しているものともいえる。新年を迎えるにあたり、当時の人々が過ごす正月という時に、思いを馳せながら餅や酒に手を伸ばすのも一興であろう。

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