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男子禁制の「大奥」に勝海舟が住んでいたことがある⁉

女の園・大奥の謎【第3回】


坂本龍馬(さかもとりょうま)の師として、また、江戸城無血開城を実現させた人物として歴史に名を残す勝海舟(かつかいしゅう)。なんと彼は、無名の時代に、大奥に住んでいたという。


 

自由闊達な子供として大奥でも知られる

勝海舟
父親の小吉は、読み書きもできず、一生役職に就くことなく生涯を終えた。親戚たちは、そうした小吉の子である麟太郎の将来を心配し、大奥に連れて行ったのだろう。(国立国会図書館蔵)

 幕末の「三舟」の一人に数えられる勝海舟が、大奥に住んでいたというと、皆さんは驚くだろうか。

 

 大奥という地名のところに住んでいたとか、大奥という人の屋敷に住んでいたとか、名称から生じる余談なのではと思われる人もいるかもしれない。そうではなくて、正真正銘本当の江戸城の大奥に住んでいたのだ。

 

 江戸城大奥は、将軍の家族が住むところ。その家族の世話をする者たちは、住み込みで働いていた。

 

 勝は麟太郎(りんたろう)と呼ばれていた子どもの時代に、2歳年下の11代将軍徳川家斉(とくがわいえなり)の継嗣(けいし)徳川家慶(いえよし/後の12代将軍)の5男初之丞(はつのじょう)の遊び相手として、大奥に住んでいたのだ。

 

 勝の家は、視覚障害者であった曽祖父が、視覚障害者に特別に許されていた高利貸を営み儲けた金で、男谷(おたに)という旗本(はたもと)の株(権利)を買い、その男谷家から勝家に養子に出されたのが麟太郎の父小吉である。

 

 その男谷家の縁者に「オチヤ」という大奥勤めの女性がおり、数えで7歳、満年齢に直すと6歳の時、その女性に連れられて江戸城本丸に連れていかれたところ、気に入られて大奥入りが決まったという。

 

 同じように連れてこられた大勢の子どもの中で、目立って闊達(かったつ)だったところを見込まれて、貧乏旗本の子どもでも一向に構わないからといわれたという。もっとも、闊達すぎて、大奥勤めの間には「アバレモノ」としてお灸を据えられることもあったようだ。

 

 しかし、勝が初之丞の遊び相手として大奥で暮らしたのは、数えの9歳まで。といっても、大奥での大暴れが酷くて家に帰されたわけではないようだ。

 

 その証拠として、大奥から家に戻った後でも大奥の女性と手紙のやり取りをしている。残されている手紙を見る限りでは、瀬山様という女性にとてもかわいがられていたようで、瀬山様から瀬戸物などの贈り物が勝家に届けられたこともあったという。

 

 では、なぜ勝が家に帰されたかというと、大奥にいられる年齢の上限に達してしまったからのようだ。大奥は男子禁制とされているが、最近の研究では、9歳以上の男性が対象。つまり、勝は遊び相手としての定年である9歳になってしまったのだ。

 

 勝麟太郎は一時期でも、将軍家の子どもの遊び相手つまりご学友だったのだ。そのコネで出世の道が拓ける可能性があった。初之丞はその後、御三卿のひとつ一橋家に養子に入り、一橋慶昌(よしまさ)となった。この時、かつての遊び相手であった勝を一橋家の家臣として召し抱えるという話が浮上した。

 

 そのため、勝家では麟太郎が勝家の家督を継ぐ手続きを始めるが、その途中で、肝心の一橋慶昌が亡くなってしまう。勝麟太郎の出世ストーリーは絵に描いた餅になってしまった。

 

 将軍家の子どもは、初之丞だけではなかった。徳川260年の歴史の中には数多くの男子が生まれている。乳幼児の死亡率が高かった当時のことだから、将軍家の子とはいえ、無事に遊び相手が必要な歳にまで成長することは少なかったのかもしれない。

 

 それでも、初之丞のように遊び相手が必要な歳となり、様々な伝手を使って大勢の子どもが集められ、その中から選ばれた子どもが、大奥に住み込みでお相手を務めていたのであろう。勝麟太郎が後に勝海舟として有名になったため、その生涯の研究が進んでおり、このように大奥勤めのエピソードが明らかになっているが、ほかにも大奥の住んだことがある男性が存在していたはずだ。

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過去記事

加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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