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直江兼続の戦略を阻んだ関ヶ原の「想定外」との戦い【前編】

武将に学ぶ「しくじり」と「教訓」 第11回

■直江兼続の想定を超えていく現実

山形県米沢市の米沢城跡にある、上杉景勝と直江兼続の像。前立てに「愛」の字を掲げた兜を抱えている右側が兼続。

 直江兼続(なおえかねつぐ)といえば、上杉景勝(うえすぎかげかつ)の股肱(ここう)の臣として戦国時代から江戸時代初期までの上杉家を支え、米沢藩の基礎を作り出した知将というイメージが強いと思います。

 

 兼続は予見に優れ、敵を翻弄(ほんろう)しながら事前の想定通りに戦局を組み立てていく天才棋士(きし)のような印象があるかもしれません。しかし、実際の兼続は上杉家存続のために、想像を超える環境変化に対して、ギリギリで凌いでいた泥臭い武将です。

 

 特に関ヶ原の戦いにおいては、兼続の事前の計画が思い通りに行かず、裏目に出る事も少なくありませんでした。結果としてですが、会津120万石から米沢30万石にまで大幅減封されてしまいます。

 

 それは兼続の見通しを超える「想定外」の事態が頻発した事が原因でした。

 

■「想定」と「想定外」とは?

 

「想定」とは辞書によると、ある条件や状況を仮に設定することと書かれています。計画や戦略を考える上では、非常に重要な要素です。

 

 一方で「想定外」とは、事前に予想した範囲を超えることとされています。想定外で注意が必要なのは、本当に予想や予測できなかったケースではなく、思い込みや希望的観測によって除外してしまっているケースです。これは、近年の大規模な自然災害により甚大な被害が発生しているケースで、よくみられます。

 

「想定外」を減らすためにも、予想や想定を予め広げておくことが重要だと言われています。

 

 しかし、想定の範囲を決める時には、先入観によって制限されるなど、バイアスがかかる事が往々にしてあります。事前の想定を小さく狭くしてしまった事で、被害などを拡大させてしまいます。それを防ぐためにも、三現主義(現場、現物、現実)による視点が大事と言われているように、想定を広げるためには多様な視点が必要です。

 

■上杉家の単独執政となった兼続

 

 直江家は出自が不明な点も多いですが、直江景綱(かげつな)が上杉謙信の側近となり頭角を表しました。景綱の子信綱(のぶつな)が暗殺されたことで、その名跡を樋口兼続が引き継ぎ、直江兼続と名乗ります。

 

 そして、兼続と狩野秀治(かのうひではる)の二人が執政として上杉景勝を支えます。秀治が病死したことで、兼続の単独執政となり、死ぬ間際まで上杉家の差配を一人で行っていきます。それゆえ、家中では、景勝が殿様と呼ばれるのに対して、兼続は旦那という敬称が付けられるほどの地位を得ていました。

 

 これは景勝の厚い信用と信頼を受けての事とはいえ、兼続による独裁体制に近い状態です。そして豊臣政権との良好な関係構築に成功し、御館(おたて)の乱により減少していた上杉領を会津120万石にまで拡大させます。

 

 しかし、天下人である秀吉の死によって、諸侯たちは御家消滅も考えられる判断の難しい局面に立たされます。兼続も上杉家存続のために、現状で考え得るだけの想定を検討して手を打っていきます。

 

■豊臣政権における上杉家の地位

 

 豊臣政権が天下統一を進めていく中で、上杉家は早い段階で従属の姿勢を見せます。兼続は上杉側の取次担当として、豊臣政権が強大化していく事を想定し、関係性強化を図ります。上杉家の方針として、中央政権に従属する形での生存戦略を取りました。

 

 そのため、謙信時代からの方針である越中や信濃、上野への再進出を放棄します。小田原征伐にも従軍し、文禄の役では秀吉の名代として海を渡っています。

 

 その姿勢が評価されて、豊臣政権を支える五大老(もしくは十人衆)に数えられるまでになりました。蒲生氏郷(がもううじさと)の死去を受け、関東東北の抑えとして会津120万石へ加増転封されます。この時代において、父祖の地から離れる事は、非常に大きな政治的決断です。

 

 ここまでは兼続の想定通りに、この豊臣政権内での地位向上に成功していました。

 

 しかし、秀吉の死によって、諸侯それぞれが生き残りをかけて暗躍を始めた事で、政権及び体制が大きくゆらぎ出します。

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森岡 健司もりおか けんじ

1972年、大阪府生まれ。中小企業の販路開拓の支援などの仕事を経て、中小企業診断士の資格を取得。現代のビジネスフレームワークを使って、戦国武将を分析する「戦国SWOT®」ブログを2019年からスタート。著書に『SWOT分析による戦国武将の成功と失敗』(ビジネス教育出版社)。

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