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古来日本列島に生活してきた人々は、どんな音を聴いてきたのだろうか?【音の考古学】

[入門]古墳と文献史学から読み解く!大王・豪族の古代史 #071

 梅の咲く頃にはよく通るウグイスの鳴き声が響きます。ほかにもカラスやスズメ、ヒバリやトンビなどが空を飛び、声を聴かせてくれます。こういった生き物の鳴き声は、ほかにも鹿や犬、猫などあふれるほど古来身近にあったでしょう。

 

 犬が「ワンワン」と吠えて、それが「バウバウ」と聞こえようとも、鶏が「クッカドゥードゥルドゥー」と鳴いて、それが「コケコッコー」と聞こえようとも、鳴き声は全く同じなわけで、人の表現が違うだけですね。(笑)

 

 自然界の音も豊富です。風の音だけでもどれほど種類があるでしょう。サヤサヤ、スースー、ビュービュー、ゴーゴーなどなどいくらでもありますね。雨音や波の音、川の流れる音、落雪の音、遠雷近雷落雷もそうです。

 

 こういった自然界の音は古来変わるはずがありませんので、古代人もみんな聴いてきたはずです。

 

 人間が作った道具も音をたてたでしょう。例えば「銅鐸(どうたく)」。資料館などに再現された物があって、音色を確かめることができたりします。金属性のコーン、カーンという音がしますが、大きさや形によって微妙に個性がありますね。

 

 こうした「物や生き物がたてる物音や鳴き声」などがまったく変わっていないことにこだわってみると、現代の私たちも、ことばも宗教も価値観なども違った古代人も、同じ音を聴いていたことに気づきます。

 

 現代は音が豊富です。車のクラクションやジェット機のエンジン音、工事現場のドリル音や横断歩道で鳴り響く音楽、電車の走行音やインターホンのピンポン音、スマホの着信音など実に多くの文明音がしています。

 

 そんな現代音が一切なかったら…。

 

 人はもっと自然の奏でる音に敏感だったかもしれませんね。

 

 

「万葉歌」について想うことがあります。これは実にリズミカルな歌詞なのです。すると、そこにはメロディもあったのではありませんか?

 

 年が明けると「歌会始(うたかいはじめ)」がありますが、なんとも悠長で古式を感じさせるものの「棒読み」ではありませんか!人々の聴いてきた「音」について考えていると、まちがいなく豊富なメロディがあったに違いないと思えてなりません。

 

「あの人の歌は詩もいいけれど、誰もまねのできない独特な節がいいよね!」

 

「あの人は、節は下手だけど、透き通った声が魅力なんだよね!」

 

「あの娘は声もいいが、あのしぐさや振付がすばらしいんだ!」

 

 などとそれぞれの歌人にいろいろな理由でファンがいたのだと思えてなりません。

 

 実際に、関西を中心に活動を続けている「万葉歌がたり会」の皆さんは、万葉歌にワルツやボサノバ、童謡風や行進曲風になど、さまざまな曲をつけて歌語っていらっしゃいます。

 

 忙しく音にあふれた現代ですが、豊富な自然音に耳を傾けていた古代人の感覚で、ひと時を過ごしてみてもいいかもしれませんね。

 

我が家の愛犬Jackyと雪犬だるま      
犬と人の共同生活は縄文時代には始まっていたと考えられている。柏木撮影


水辺の鳥 古墳時代には神聖な生き物とされていた。彼らの鳴き声は変わっていない。柏木撮影


佐賀県吉野ヶ里遺跡再現展示 銅鐸と共同作業風景 柏木撮影


佐賀県吉野ヶ里遺跡再現展示 銅鐸と共同作業風景 柏木撮影

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柏木 宏之(かしわぎ ひろゆき)
柏木 宏之かしわぎ ひろゆき

1958年生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒業。1983年から2023年まで放送アナウンサー、ニュース、演芸、バラエティ、情報、ワイドショー、ラジオパーソナリティ、歴史番組を数多く担当。現在はフリーアナウンサーと同時に武庫川学院文学部非常勤講師を務め、社会人歴史研究会「まほろば総研」を主宰。2010年、奈良大学通信教育部文化財歴史学科卒業学芸員資格取得。専門分野は古代史。歴史物語を執筆中。

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