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硫黄島をめぐって日米が激戦を繰り広げた理由

沖縄戦と本土決戦の真実①

サイパン島の次は硫黄島が標的に

硫黄島南端にある摺鉢山。内部には日本軍のトンネルが張り巡らされ、硫黄島の戦いにおいては、米軍が四方から攻撃を加えた。

 第1次世界大戦後、戦勝国の日本は、国際連盟からマリアナ諸島(グアム島を除く)やパラオ諸島など南洋諸島の委任統治を託された。

 

 小笠原諸島の南端近くにある硫黄島(いおうとう)が軍事的に注目されたのは、昭和に入って航空機が飛躍的に発展してからである。というのも父島や母島の大部分は山に占められ、滑走路の長い飛行場は建設できない。

 

 そこで海軍は、東京から約1250キロ、サイパン島から約1400キロの地点にあり、島の大半が平坦な硫黄島に、昭和8年(1933)に飛行場を建設。昭和16年(1941)12月8日の開戦後は、段階的に防備が強化された。

 

 戦局が悪化した昭和19年(1944)5月22日、大本営は小笠原諸島の防備増強のため、第109師団を創設。師団長として白羽の矢が立ったのは、第23軍参謀として香港攻略作戦を立案、攻略戦に従軍したのち、留守近衛第2師団長に就いていた 栗林忠道(くりばやしただみち)陸軍中将である。

 

 栗林は陸軍大学校を2番の成績で卒業したエリート士官で、在学中は戦略戦術学に抜群の成績を収めた。騎兵大尉でアメリカに留学し、語学や軍事研究などに励んだ。騎兵少佐で初代カナダ公使館附武官に任ぜられ、その後は騎兵第7連隊長、騎兵第2旅団長などを歴任した。

 

 5月27日、栗林は東條英機(とうじょうひでき)首相から直々に「君のほかにやれる者がいないから、よろしく頼む」と声をかけられ、師団長に親補(しんぽ)された。

 

 栗林は6月8日、硫黄島に直行した。アメリカ軍が攻め寄せるとすれば、飛行場がある硫黄島しかないとの確信があったためである。

 

 6月15日、アメリカ軍がサイパン島に上陸。19日から20日にかけてマリアナ沖海戦が行われ、連合艦隊は壊滅的な被害を受けた。

 

水際撃滅戦から脱却した智将・栗林中将の慧眼

 

 硫黄島はサイパンのような山岳地帯もジャングルもない。頭脳明晰な栗林は、従来の水際配置・水際撃滅主義を捨て、上陸した敵をひきつけて攻撃する縦深陣地の構築が必要と判断した。

 

 26日、大本営直属の小笠原兵団が編制され、栗林は兵団長を兼任した。これにより陸軍と海軍の共同作戦が図られると期待したが、海軍は従来の水際撃滅にこだわった。陸軍の幕僚にも賛同する者があったため、陣地構築をより実効的なものにすることで了承した。ただし、栗林は意にそぐわない幕僚を更迭し、適任と思われる士官と入れ替えた。

 

 7月9日にはサイパン島が陥落。この責任をとるかたちで18日、東條内閣は総辞職した。

 

 硫黄島には約千人の島民が暮らしていたが、栗林は軍属として徴用された約230人を除き、7月中に3回に分けて内地へ疎開させた。

 

 7月中旬、ロサンゼルスオリンピック馬術競技で金メダリストとなったバロン西(にし)こと西竹一(にしたけいち)陸軍中佐(戦死後に大佐)が戦車第26連隊長として着任した。

 

 8月上旬には、のちに「ルーズベルトニ与フル書」で知られることになる市丸利之助(いちまるりのすけ)海軍少将(翌年3月に中将)が、第27航空戦隊司令官として着任した。

 

 8月2日にテニアン島、11日には、開戦後に日本軍が占領していたグアム島が陥落。硫黄島は絶対国防圏の最後の砦となった。

 

 10月3日、アメリカ統合参謀本部は、太平洋方面最高司令官ニミッツ海軍大将に硫黄島攻略を命じた。9日、ニミッツはデタッチメント作戦の準備を発令した。

 

 マリアナ諸島の各基地に新鋭戦略爆撃機B29が配備され、11月24日、初めて東京を空爆した。

 

 B29による日本本土への空爆が本格化すると、燃料切れなどで海上に不時着する機体が相次いだ。P51ムスタングなど護衛戦闘機の基地も必要である。アメリカ軍にとって硫黄島攻略が急務となった。

 

監修・文/松田十刻

(『歴史人』2022年6月号「沖縄戦とソ連侵攻の真実」より)

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