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硫黄島で米軍の猛攻を許した日本軍の誤算

沖縄戦と本土決戦の真実②

堅固な地下陣地と必勝の挟撃作戦

硫黄島の一部の区域に設けられていたトーチカ。コンクリート製で、軍事的に重要な拠点を守るために作られた。当時は周囲に土が盛られ、見つかりにくいように偽装されていた。

 昭和20年(1945)が明けると、硫黄島への空爆が激しさを増した。第109師団の師団長だった栗林忠道(くりばやしただみち)陸軍中将は飛行機で東京に出張する部下に家族宛の手紙を託していたが、1月21日付の妻宛では「比島(フィリピン)の作戦は漸次不利の様だし、吾々(われわら)の方へももう直ぐに攻め寄せて来るかもしれないから、吾々ももう 疾(と)っくに覚悟をきめている」として、生きて帰れるなどと思わないで欲しいと綴っている。

 

 最後の手紙となった2月3日付の妻宛では焼夷弾(しょういだん)、さらにはガソリンが入ったドラム缶ごと投下されて辺りが火の海になったことなどをあげ、空爆の凄まじさを伝えている。

 

 2月16日、アメリカ軍の上陸支援艦隊(戦艦6隻、巡洋艦5隻)が硫黄島への艦砲射撃を開始した。護衛空母の艦上機は弾着観測や陣地への爆撃、機銃掃射に加え、ロケット弾やナパーム弾を浴びせた。

 

 日本軍守備隊は約2万人(陸軍約1万3千人、海軍約7千人)。爆裂音や振動が島全体を揺るがすなか、将兵は地下要塞でじっと耐えた。

 

 栗林は縦深(じゅうしん)防御を徹底させるため、地下10メートルから20メートルもの深さがある坑道を島中に張り巡らせた。地下陣地を縦横に結ぶ地下道は総延長18キロにも及ぶ。暑さと水不足のなか、将兵や軍属が血と汗で築いた地下要塞である。ただし、当初予定していた28キロには及ばず、島の西南端にある擂鉢山(すりばちやま)と北東端の司令部を結ぶ坑道は未完成のままとなった。

 

 艦砲射撃と空爆により、海軍が海岸線に構築した陣地の大半は破壊されてしまった。

 

 栗林は守備隊の主陣地を島の中央部の元山台地とその周囲に配置させた。そのうえで海軍が陣を敷く摺鉢山と呼応し、上陸部隊を挟み撃ちする考えだった。

 

艦砲射撃と航空機の爆撃── 執拗な上陸準備攻撃

 

 ところが、思わぬ誤算が生じた。栗林は事前に、アメリカ軍に位置が露見しないように火砲は上陸前に発砲せず、敵艦隊への砲撃は行わないようにと厳命していた。にもかかわらず17日、アメリカ軍の掃海艇と武装揚陸艇(ようりくてい)12隻が東海岸に接近すると、これを上陸部隊の第一波と誤認した摺鉢山の砲台と海軍の南砲台が、揚陸艇だけでなく沖合の重巡洋艦や駆逐艦にも砲撃を加えた。

 

「早まったことをしおって。みすみす敵に位置を教えてしまった」

 

 栗林は地団太を踏み、海軍への不信を募らせた。砲撃でアメリカ軍にある程度の損害を与えたが、その代償は大きかった。

 

 案の定、アメリカ軍は18日早朝から夕方まで、摺鉢山と南砲台に間断なく艦砲射撃を浴びせ、空爆をくり返した。この日の猛撃でコンクリート製のトーチカや重巡洋艦の副砲と同じ水平砲台が壊滅状態になった。これによって、上陸部隊を挟み撃ちにするという栗林の目論見は崩れてしまった。

 

 そして2月19日午前6時40分、アメリカ軍の艦砲射撃が始まった。

 

 午前9時、第4・第5海兵師団の上陸が始まり、海岸線はLVT(水陸両用トラクター)で埋め尽くされた。午前10時までに将兵約9千人が上陸した。

 

「攻撃を始めよ!」

 

 栗林が一斉射撃を命じると、それまで沈黙していた大砲、機関砲、ロケット砲などが火を噴いた。海岸にはおびただしい数の死傷者が横たわり、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の惨状となった。

 

 アメリカ軍は揚陸艦で戦車やブルドーザーなどを揚陸したが、それらも撃破し、上陸部隊を海岸線に釘付けにした。それでも圧倒的な兵力を誇るアメリカ軍は後続を次々と上陸させ、一部は進撃に転じた。

 

 この日だけでアメリカ軍は約3万人が上陸したが、約2400人が死傷(戦死者約500人)した。

 

 上陸部隊を率いるホーランド・スミス中将は、「5日間で陥落させる」と豪語していたが、緒戦の惨状はその甘い観測を打ち消す結果となった。

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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