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江戸時代の人々の病の直し方の基本は“神仏頼み”だった⁉

江戸時代における病の直し方【第1回】


医療技術が、現代ほど発達していなかった江戸時代において、病にかかった場合にはお参りするのが常だった。当時の寺社仏閣では、毎日のように祭りや縁日が開かれており、多くの人々が足を運んだという。


「お仙と若侍」
谷中にあった笠森稲荷は、皮膚病や梅毒に霊験あらたかと人気が高かった。門前にあった鍵屋で働いていたお仙は評判の看板娘で彼女を目当てに訪れる人も多かったという。(東京国立博物館蔵/出典:ColBase)

 医療が今ほど発達していなかった江戸時代、病気になった人たちはどのように治していたのだろうか?

 

 江戸時代の人々の病の治し方の基本は神仏頼みだった。これは、医者にかかるためには、お金が必用だったことや、高い金を払っても、治らないことが多かったからだ。

 

 また、医者とともに祈禱師(きとうし)を呼んで、祈禱してもらうことも、明治になって政府が医療行為は医者に限ると制限するまでは普通に行われていた。もっとも祈祷師は病気を治すというよりは、病気で不安になっている人の心を落ち着かせるためだったようだ。病は気からというが、くよくよ考えるのが一番病気にはよくないのかもしれない。

 

 現代人でも病気やケガをして、医者には見てもらったものの、この病気にはご利益があるという神社や寺院をお参りしたという人も多いのではないだろうか。

 

 今でも、「目の病気なら新井薬師(あらいやくし)」「脚のことなら西光寺(さいこうじ)」などとあるように、江戸時代にも、この病気にはこの神社、このケガはあっちの寺院ということもあったようだ。しかし、一般的には、身近な神社や寺院、もしくは日頃から信心しているところにお参りをして、病気平癒を祈ったり、お百度を踏んだりすることが多かったようだ。本人ができない場合には身近な人が代参することも行われていた。

 

 江戸時代の人は、現代人に比べて信心深かった。江戸の庶民たちが住んでいた裏長屋の一角には必ずといってもいいほど、稲荷を祀った祠(ほこら)があった。

 

 また、大名たちの江戸屋敷にも、地元の有名な寺社から勧請(かんじょう)して祀っていた。たとえば、現在の赤坂にある豊川稲荷(とよかわいなり)東京別院は、西大平(にしおおひら)藩主であった大岡忠相(おおおかただすけ/時代劇『大岡越前』のモデルとして知られる)が、信仰していた豊川稲荷を分霊して祀ったのが始まりとされている。東京で安産の神様として人気が高い水天宮も、もともとは地元から勧請して久留米(くるめ)藩江戸上屋敷に祀られていたものであった。大名は、自分の領地で有名な神や仏を江戸屋敷に祀ることで、病をはじめとする様々な不安を取り除こうとしたのだろう。

 

 江戸時代の最も身近な娯楽は、神社仏閣を詣でることだった。人々の移動は基本徒歩だったから、交通費はかからない。当時は神社仏閣を詣でるのに拝観料を必要とはしなかったし、お賽銭も小銭ですむ。お守りやお札を買う人もいたようだが、これもわずかな出費だ。

 

 江戸では、ほぼ毎日どこかの寺社仏閣で、お祭りがあったり、縁日が開かれていたりしていた。人出を当て込んで様々な行商人たちが境内に集まって来たという。中には、客寄せのために簡単な芸をする行商人もいたから、ただで、こうした芸を楽しむこともできた。神社仏閣の門前には、大抵の場合茶屋があり、そこでの一服や、名物の菓子を食べることを楽しみにしていた人もいた。

 

 江戸時代の医療は、脆弱で、重い病にかかったら直らないことが多かった。江戸時代の人々はそれを天命と受け止め、精一杯自分でできることをした。病気になったことを悲観するのではなく、病気になって、神や仏に縋(すが)ることの中にも、江戸の人々は、様々な楽しみを見出していたのである。

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加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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