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戦働き朝飯前!無双の薙刀召し上がれ♪〝巴御膳〟!?

桂紗綾の歴史・寄席あつめ 第17回


現在、NHK大河ドラマのテーマとなり、注目を浴びる鎌倉時代の歴史。その歴史のなかでも煌びやかに、美しいながらも武勇を誇った女性がいた。「巴御前」である。勇猛な女武者として語られる巴の話は、能や講談の演目としても人気を集め、歴史を経ても多くの人たちに愛される。ただ能や演目で登場する巴は「強さ」だけでなく、女性ならではの「思い人」を強く思う人物としても描かれてきた。いったいそれはどんな姿だったのか、語ってくれたのは大阪・朝日放送のアナウンサーでありながら、社会人落語家としても活動する桂紗綾さん。伝統芸能にも精通する彼女ならではの語りをどうぞ!


 

巴御前
木曽義仲軍の一大将として活躍し、その勇猛さは日本各地に伝説が残るほど。義仲の愛妾ともいわれる。(東京都立中央図書館蔵)

 

『平家物語(へいけものがたり)』と『源平盛衰記(げんぺいせいすいき)』は、二卵性の双子のような存在です。同じ事象を描いていても、それぞれ物語は異なります。そんな二つを元に創られた芸能も、また然り。

 

 木曾義仲(きそよしなか)の愛妾(あいしょう)で勇猛な女武者として名高い巴御前(ともえごぜん)を扱った2種類の作品を比べてみましょう。

 

 室町時代に観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)親子が大成させた〝能〟には『巴』という演目があります。能の源平ものは『平家物語』がベースになっている。

 

 あらすじはと申しますと、木曾義仲終焉の地である近江国(おうみのくに)の粟津ヶ原(現・滋賀県大津市)を旅の僧が通りかかれば、松陰の神前で女が一人泣いている。訳を聞くと、ここは源義経(みなもとのよしつね)に敗れた義仲が祀られている場所だという。共に手を合わせた後、女は自分のことは里の人間に尋ねるよう伝え、姿を消してしまう。僧は里の人間から義仲と巴御前の物語を聞き、あの女は巴御前の霊魂だと合点する。僧が弔うと、巴の霊が薙刀(なぎなた)を手に甲冑姿で現れ、「女とて御最期に、召し具せざりし」と、怨みと義仲の最期を語る。

 

義仲寺
粟津の地で最期を遂げた木曽義仲。義仲が葬られたといわれる場所に立つ寺で、寺名は義仲に由来している。

 

 回想の中では…――愛する義仲と共に戦い、共に死ぬことを願う巴だったが、女であることを理由に落ち延びるよう命じられる。

 

「背かば主従三世の契り絶え果て」
(主従の間柄には、現在だけでなく過去・未来にもわたる深い因縁がある)

 

 という義仲の強い言葉に、主従は夫婦よりも強い絆だと信じる巴は、揃い果てることを諦め、最後の勇姿を見せるべく涙を流しながら戦場で逞しく薙刀を振る。しかし、無傷で戻るも虚しく既に義仲は自害していた。巴は甲冑と烏帽子を脱ぎ、義仲の形見の小太刀を抱いて木曾へと向かう。

 

――愛しい人を残して去らなければならなかった〝執心〟で、巴の魂だけが粟津ヶ原に漂い続ける悲しい愛の物語。幽玄の世界を表現する能だからこその悲劇と言えるでしょう。

 

木曽義仲
木曽義仲は、源頼朝よりも先に、全盛を迎えていた平氏を追い詰め、上洛を果たすなど、華々しく活躍した。(東京都立中央図書館蔵)

 

 また、勇ましい軍記物を読む〝講談〟には『源平盛衰記』から抜き出した『巴御前』という話があります。木曾義仲が俱利伽羅峠(くりからとうげ)の戦いで平家を打ち負かし、疾風怒濤の如く都入りするも、やがて「木曾殿は山が育ちで世に合わず」と後白河法皇や公家に疎まれるようになる。

 

 鎌倉にいる源頼朝に義仲追討の命が下り、大将に就いた源義経は宇治と瀬田の二手に分かれ、義経は宇治に進む。宇治が突破され義仲が討死覚悟で出陣するも、巴に「領将たるもの死を軽んずるは如何に候、関東勢何万騎取詰め候とも、君の御影は踏ませ申すまじく」命さえあれば再起も可能、一旦ここは引くべきだと諫められる。彼女の進言を聞き入れ、その場を巴に任せる義仲。「女子の身なればいずくなりとも立ち退けよ」巴の身を案じ見つめ合う2人、それが今生の別れとなる。

 

 残った巴は義仲敗走の時間を稼ぐため、薙刀を携え三百人の兵を率い梶原景高勢と対峙すると、一瞬で24人の敵を斬り捨てた。その圧倒的強さに慄き逃げ惑う敵勢。そこへ現れたのが和田義盛、いざ一騎打ちを名乗り出る。互角の勝負に見えたが、肝心な時に刀を失った巴の運が尽きたか、義盛に捕らえられてしまう。

 

 一方、主君の義仲は粟津ヶ原の露と消えた。巴の女傑ぶりを買った義盛は頼朝に彼女の命請いをし、妻にする。その時巴のお腹には義仲の子がいた。これが後の朝比奈三郎義秀である。巴は和田合戦で和田一族が滅んだ後も生き延び、91歳で天寿を全うした。朝比奈三郎の義仲息子説は、「講談師、見てきたような嘘を言い」と言われる、いかにも〝講談らしい〟エピソードなのかもしれません。

 

和田義盛
一説には、和田義盛は義仲を失った巴御前をめとり、子をもうけたという。(国立国会図書館蔵)

 

 いずれにせよ義仲への想いが中心の物語ですが、それを差っ引けば、とにかく強く潔い巴。精神的・肉体的な強さ、生き様を見せつけてくれます。臆することなく主人に進言出来る信頼関係、敵方にも敬意を払わせる程の武士道精神。現代に置き換えてみると、まるでどんな会社でも部署でも結果を出すスーパーキャリアウーマンのようです。人気漫画『島耕作』シリーズの如く、男性の出世を描く作品は多々ありますが、今後日本女性の職場における出世サクセスストーリーも多種多様なものが生まれてくるのではないでしょうか。強靭で不屈、たおやかな巴御前を主人公にした『課長 巴御前』『社長 巴御前』『相談役 巴御前』、是非とも読んでみたいものです。

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桂 紗綾()
桂 紗綾

ABCアナウンサー。2008年入社。女子アナという枠に納まりきらない言動や笑いのためならどんな事にでも挑む姿勢が幅広い年齢層の支持を得ている。演芸番組をきっかけに落語に傾倒。高座にも上がり、第十回社会人落語日本一決定戦で市長賞受賞。『朝も早よから桂紗綾です』(毎週金曜4:506:30)に出演。和歌山県みなべ町出身、ふるさと大使を務める。

 

『朝も早よから桂紗綾です』 https://www.abc1008.com/asamo/
※毎月第2金曜日は、番組内コーナー「朝も早よから歴史人」に歴史人編集長が出演中。

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