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姫路城は、歴代「最恐」の城!?~女の怨念はいちま~いも、にま~いも上ですぞ!~

桂紗綾の歴史・寄席あつめ 第16回


日本の城には、謎やおもしろ話、はたまた怖い話などを秘めた城がいくつもある。今回は日本で最大規模にしてもっとも有名な城・姫路城にまつわる怖い話について紹介。語ってくれたのは大阪・朝日放送のアナウンサーでありながら、社会人落語家としても活動する桂紗綾さん。だれもが知っている「皿屋敷」を落語話や伝説を交えて興味深くひもといていく。


 

姫路城

姫路城
平成5年、日本で初の世界文化遺産となった世界に誇る名城。400年ほど前の姿が完全に近い状態で残り、江戸時代建築の最高傑作とも評される。そびえる天守は現存国内最大規模を誇る。

 

 桜が散り暑さが本格的になり始めると、涼をとるため怪談を披露するのが日本の風物詩ですね。邦画ホラーで一番有名と言っても過言ではない、映画『リング』の古井戸から貞子が這い出すシーン。脳裏に焼き付いて夢にまで出てきそうですが、この〝女性の幽霊が井戸から出てくる=最恐〟という方程式は、ある古典作品によって日本人の潜在意識に刷り込まれているのかもしれません。

 

 それに関連するのが、城好きにも人気の姫路城。〝白鷺城〟と異名をとる程美しく堅固で、日本初の世界文化遺産でもあります。落語好きとしては、姫路城=お菊井戸=落語『皿屋敷』。井戸から現れたお菊の幽霊が、皿を「いちま~い、にま~い…」と数える怪談噺はどなたでも一度は耳にしたことがあるでしょう。

 

 落語『皿屋敷』のあらすじは…伊勢参り帰りの男が、旅先で「姫路と言えば皿屋敷、あんた地元やのに知りまへんのか」と呆れられ恥をかいたので、仲間と町内の物知りに話を聞きに行く。

 

 どうやら昔、姫路の代官・青山鉄山が腰元のお菊に想いを寄せるが願い叶わず、可愛さ余って憎さ100倍、お菊を苦しめるべく、家宝の101組の葵の皿をお菊に預けた。その内一枚を抜き取り、紛失させたとお菊に濡れ衣を着せ、踏む蹴る殴るの責め折檻。お菊は泣いて身の潔白を訴えるも、鉄山はお菊を荒縄で吊し上げ、井戸の中で上げたり下げたり。挙句、刀で肩先からばっさり斬り捨て、井戸の中に沈めてしまう。

 

 それからというもの、夜な夜なお菊の幽霊が井戸から現れ皿の数を数えるようになり、鉄山は気を病み急死。今尚お菊は毎晩皿を読んでいるが、最後の「九枚」の声を聞いた者は震えついて死ぬと言う。

 

 若者たちは「七枚ぐらいで逃げ帰ったら大丈夫ちゃうか」と、その夜、怖がりながらも皿屋敷に向かう。初めて見るお菊の幽霊が大層別嬪、かつ「七枚」の声をきっかけに走って帰れば命も無事。この噂が近郷近在に広まり、連夜見物人が押し寄せるようになった。お菊も観客が増えるにつれ「お越しやす♡」と大サービス。ただ今夜のお菊は声が変、尋ねると風邪をひいていると言う。

 

 皆お約束の「七枚」で逃げようとするが、人が多過ぎごった返して逃げられない。しかしよく聞けば、お菊が「十八枚」まで数を読んでいる。客が「こら!なんで十八枚まで読んだんじゃ」と怒ると、お菊は「二日分読んどいて、明日の晩、休みまんねん」

 

皿屋敷

皿屋敷の歌舞伎を描いた絵
『皿屋敷』の話は江戸時代、歌舞伎、浄瑠璃、講談等の題材となった。
(東京都立中央図書館)

 

 この『皿屋敷』が十八番だったのが、上方落語界四天王・三代目桂春団治師匠です。

 

 怪談噺らしく、前半は間や声の抑揚・強弱を工夫することで緊張感を生み出し、後半は緊張からの緩和で笑いの風が吹く。春団治師匠は『皿屋敷』を高座にかける時、いつも白紋付姿でした。

 

 真っ白い着物に金色の紋、羽織紐は金色の華奢な鎖。(出演するテレビCMが白いソーセージのCMだったことから、企業から白紋付を贈られたそう。)その恰好で魅せるお菊の華麗さに観客は酔いしれたと言います。

 

 そして、翌日は必ず「太腿に、みぃ入る(筋肉痛)」と仰った。それは若者が連れ立って皿屋敷に向かう場面で、座布団からお尻を浮かせつつ、膝を大きく動かして歩く仕草をしていたからです。まるで湖で泳ぐ白鳥のように、自身は苦しい体勢でも美しく見せる努力を惜しまなかった。それ故、至極の『皿屋敷』だったのです。

 

お菊井戸

お菊井戸
姫路城の「上山里」と呼ばれる一角に「お菊井戸」と呼ばれる井戸が現存。『播州皿屋敷』の舞台と推定されるが、『播州皿屋敷実録』は江戸後期に書かれた「戯作」である。

 

 さて、姫路城天守閣二段下上山里曲輪には〝お菊井〟と名の付く井戸が現存していて、お菊が投げ込まれた井戸だと言われています。しかし、実はこれは天守閣と繋がる抜け穴で、お菊伝説は井戸に人を近付けさせないために流布された噂話だという説もあります。

 

 一方で、お菊伝説は1601年に築城された姫路城よりも古くから存在したので、〝お菊井〟は全く関係なく、姫路の五軒邸という場所にあった寺の井戸が本当のお菊井戸だという話もあります。かくして、お菊井戸の真実は一体全体、未だ謎のままなのです。

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桂 紗綾()
桂 紗綾

ABCアナウンサー。2008年入社。女子アナという枠に納まりきらない言動や笑いのためならどんな事にでも挑む姿勢が幅広い年齢層の支持を得ている。演芸番組をきっかけに落語に傾倒。高座にも上がり、第十回社会人落語日本一決定戦で市長賞受賞。『朝も早よから桂紗綾です』(毎週金曜4:506:30)に出演。和歌山県みなべ町出身、ふるさと大使を務める。

 

『朝も早よから桂紗綾です』 https://www.abc1008.com/asamo/
※毎月第2金曜日は、番組内コーナー「朝も早よから歴史人」に歴史人編集長が出演中。

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