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沖縄からのおっきな輪 ~日本全国に広がった〝三本の糸〟~

桂紗綾の歴史・寄席あつめ 第17回


現在、NHK連続テレビ小説のテーマともなり先日、記念の日を迎えた「沖縄本土復帰」。その沖縄ゆかりの楽器「三線」にまつわる歴史を興味深く紹介。語ってくれたのは大阪・朝日放送のアナウンサーでありながら、社会人落語家としても活動する桂紗綾さん。大戦時のことや落語とのかかわりなど、盛りだくさんだ。


 

琵琶法師・蝉丸
平安時代の歌人、琵琶法師として歴史に名を残した蝉丸。琵琶法師の発生は、相当古いものとされ、長きにわたって愛された。東京都立中央図書館蔵

 

 今年は沖縄が日本に復帰して50年。実は、日本の演芸と沖縄は〝三本の糸〟で繋がっています。

 

 沖縄の楽器と言えば〝三線(さんしん)〟。胴から棹に張った三本の絃を爪(撥[ばち])で弾く。沖縄音楽には欠かせない音。その三線が、戦国時代に琉球から大阪・堺に伝来、琵琶法師達の手が加えられ〝三味線〟へと変化し、日本各地でそれぞれ進化していったと言われています。この三味線が日本の演芸に欠かせない楽器なのです。上方落語では三味線が出囃子(噺家さんが高座に上がる際に奏でられる曲)やハメモノ(上方落語独特のネタ中に入る効果音)に必要不可欠。浪曲は浪曲師と三味線を弾く曲師が二人で一つの芸であり、浄瑠璃も三味線が伴奏することで成立します。歌舞伎でも主要な楽器の一つ。三味線は日本の文化芸能に深く関係している、それどころか無くてはならない存在なのです。

 

梅樹据文三味線
高級な三味線。さらに胴部は、金銀や象牙で梅花を象って嵌めるなど、豪華に彩っている。江戸時代の三味線の貴重な遺例。出典:Colbase/東京国立博物館蔵

 

 三味線は細棹、中棹、太棹と、棹の太さで三種類に分けられています。軽やかで華やかな音が出る細棹は、落語や長唄で使われます。芸妓さんがお座敷で演奏するのも細棹。人の声に合わせやすい音域なのが中棹で、民謡や地唄・祭りの踊り等に適しています。大きく迫力のある音を奏でるのが太棹。浄瑠璃や浪曲で使われていて、太夫や浪曲師の張りのある太い声と美しく重なります。母胎で聞こえる心臓音のようで、ずしりと響く心地良い音です。ちなみに、今も人気の津軽三味線は太棹で、瞽女(ごぜ)と呼ばれる視覚障害者の女性芸者が巡業で新潟地方から流入させたことにより生まれたと言われています。

 

瞽女(ごぜ)
日本の女性の盲人芸者のこと。昭和年代まで全国各地の芸者として活躍していた。国立国会図書館蔵

 

 三味線の胴体に張られる皮は猫か犬のもので、最上級は雌猫です。確かによく見ると、胴体には乳首の痕が四つ。落語のネタ『猫の忠信』には、化け猫が「あの三味の、表皮は父の皮、裏皮は母の皮、私はあの三味線の子でございます」と言う台詞もあります。津軽三味線の上物は秋田犬の雌の皮。動物愛護の観点から生まれた合成皮は、残念ながら音も価格もイマイチだそう。沖縄の三線の皮は、その鱗模様からハブと思われる方も多いでしょう。沖縄では〝ハブ博物公園〟での〝ハブとマングースショー〟が一世を風靡し、滋養強壮ドリンクには〝ハブアタック〟なんて名前まで。しかし、あれはニシキヘビの皮です。

 

 さて、三線には沖縄の悲しい歴史が生んだ〝代用品〟が存在します。沖縄の人々が終戦直後の物資の少ない捕虜収容所で、大きなカンカラ(空き缶)にパラシュートの紐等で絃を張り、ベッドの木枠を削り棹にして作ったのが〝カンカラ三線〟。

 

 今でも子供の手習いは本物の前にまずカンカラ三線で練習をさせ、学校では作り方・鳴らし方を教えています。そんなカンカラ三線を片手に演芸場の舞台に上がる岡大介さんは、日本で唯一の政治風刺の演説歌・演歌を歌う芸人です。浅草の東洋館、大阪では天満天神繁昌亭にも出演されます。大正時代の演説歌「東京節」、昭和歌謡の「憧れのハワイ航路」等を披露すれば、お客さんも一緒に歌い、手拍子します。そして沖縄民謡の「十九の春」ではカンカラ三線の音色で沖縄の風を吹かせます。

 

沖縄の防空壕跡
戦時中は防空壕なっていた洞窟。大戦の悲壮さの薫りを残す場所である。現在は景観の神秘さからパワースポットになり、人気の観光地となっている。

 

 ところで、沖縄出身のアーティストBIGINのボーカル比嘉栄昇さんは、自身のライブで『涙そうそう』を演奏中に、赤ん坊が泣き出すと「泣いたら良いよ、今はもう泣いても良い時代なんだから」と言いました。戦時下の沖縄では、ガマに潜む間赤ん坊が泣くと敵に知られると言って殺された、平和な世になったのだから赤ん坊は泣いたら良いと、沖縄の痛みを知る人は言う。どんな境遇でも沖縄の歌を歌い続けた人々、彼らの想いが詰まったカンカラ三線も、今笑いの溢れる演芸場で温かい音を紡いでいます。

 

 平和だからこそ泣ける、平和だからこそ笑える、改めて平和の有難さを噛みしめる時間となるのです。

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桂 紗綾()
桂 紗綾

ABCアナウンサー。2008年入社。女子アナという枠に納まりきらない言動や笑いのためならどんな事にでも挑む姿勢が幅広い年齢層の支持を得ている。演芸番組をきっかけに落語に傾倒。高座にも上がり、第十回社会人落語日本一決定戦で市長賞受賞。『朝も早よから桂紗綾です』(毎週金曜4:506:30)に出演。和歌山県みなべ町出身、ふるさと大使を務める。

 

『朝も早よから桂紗綾です』 https://www.abc1008.com/asamo/
※毎月第2金曜日は、番組内コーナー「朝も早よから歴史人」に歴史人編集長が出演中。

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