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関ヶ原の戦いで勝ち組に味方し生き残った「小川祐忠」(西軍)

「関ヶ原の戦い」参戦武将たちの本音! 第3回 


天下分け目の戦い・関ヶ原の戦い。徳川方、石田方に分かれ、日本中の武将たちが2分して戦い、約15万人もの兵を巻き込んだ大戦となった。ここでは普段フォーカスされない武将たちが、なぜ東軍(西軍)に加わったのか、合戦での役割はどんなものであったのか、さらには戦後の動向など、その武将たちの動きと心の裡(うら)を読み解く。


小川祐忠 おがわ・すけただ
所領/伊予国府7石、動員兵力/2,000人(推定)、布陣場所/松尾山麓、合戦での動向/戦闘後半に東軍に寝返る、戦後の処遇/改易

 しかし、参ったなあ。本当に金吾(小早川秀秋/こばやかわひであき)は、寝返るのか。度々、藤堂高虎(とうどうたかとら)からそのような言葉や書状で知らされていたが、合戦とは、どのような嘘も平気で吐けるというのが当然の世界でもあった。だから、藤堂の誘いにはうっかり乗れまいぞ、というのが隣接して陣を構える朽木元綱(くちきもとつな)との一致した見解であった。現に、眼前で戦う西軍の宇喜多勢や大谷勢は善戦している。善戦どころか、東軍を押し返しているし、公平に見れば西軍有利のまま合戦は展開しているではないか。

 

 うっかり、藤堂の言葉には乗れまい。ここで、この合戦で負けたらなら、俺の人生は「負け犬」のままじゃないか。ああ、思い出してしまった。俺にとって最初の負け戦を…。あれは、元亀元年(1570)姉川(あねがわ)合戦であった。浅井長政(あざいながまさ)の配下にあった俺は、あの合戦も優勢に戦いを進めながら、結果として横合いから槍を入れてきた徳川軍のお陰で負け戦になってしまった。その後の信長に対しての近江一向一揆衆の戦いも、俺は結果として降伏して人質を7人も差し出して許された。後に明智光秀軍団の一角にはいたが、今度は「本能寺の変」だ。太閤(秀吉)との山崎合戦でも明智勢にいた俺は負け戦を経験した。 何とか許されて、今度は太閤の直臣となった。太閤の時代には今の伊予(いよ)国・今治(いまばり)7万石を所領したが、ここにきて今度は西軍として関ヶ原にいる。金吾が陣取る松尾山の麓で金吾の見張りのような形で、朽木・赤座直保(あかざなおやす)・脇坂安治(わきざかやすはる)らと並んで陣取ったが、この4人の中で俺が最も多くの将兵2100を擁している。つまりは、この4武将の中心なわけだ。今度ばかりは、絶対に負け犬にはなるまい。自分の力で勝ち組に入らねば、と心に誓ってこの関ヶ原にやって来たのだから。 

 

 それにしても西軍は強い。治部の采配も見事だし、治部の家老・島左近(しまさこん)というのは合戦をするために生まれてきたような男だ。あのような部下が俺にもいれば……。

 

 やや、あの喚声は何だ?松尾山から大軍が降りてくる。金吾がとうとう寝返ったか。これは何としたことか。やや、脇坂が大谷隊に突っ込んだ。朽木も。これでは西軍の勝ちにはならぬ。よし、俺も呼応するぞ。者ども、突っ込め! 敵は大谷隊である!

 

 そこに「殿、小川甚助の郎党・樫井太兵衛が敵将・平塚為広(ひらつかためひろ)を討ち取りました!」の叫び声がした。何と、昨日まで若狭方面からの戦いを共にしてきた友軍の平塚殿を・・・平塚殿、許されよ。これだから負け戦は悲しいのだ。寝返りまでしたのだから、何としても勝ち組にならねば。

 

 おお、東軍が立ち直った。金吾の寝返りと我らの寝返りが功を奏した。これは大きな仕事をしたぞ。降伏ばかりの武将人生に、やっとおさらば出来そうだ。それ、者ども太兵衛に続け。手柄を立てよ。命を惜しむな。

 

     ◇

 

 負け犬から脱却した筈の小川祐忠は、功があったにもかかわらず「内応の約束がなかった」として改易となり、今治7万石を失った。

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過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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