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NHK『人形劇 三国志』のなつかしい人形たちは、なぜ長野と渋谷の2ヵ所にあるのか?

ここからはじめる! 三国志入門 第55回


足かけ1年半にわたり、本場中国に先駆けて「三国志演義」を長編映像化。40年も前に放送された番組でありながら、今もファンを魅了してやまないNHK『人形劇三国志』(198210月~19843月)。今回は、その作中に登場した人形を間近に観られる施設のうち、東京渋谷区にある「川本喜八郎人形ギャラリー」を紹介したい。


 

 人形劇の生みの親、川本喜八郎(かわもときはちろう/19252010)が製作した人形が観られる施設は主に2つある。まず、その一つが長野県にある飯田市川本喜八郎人形美術館だ。喜八郎は生前、人形劇フェスタが開催されるなど「人形のまち」として名高い飯田市から熱烈なラブコールを受け、自身の人形を寄贈。2007年にオープンした。

 

 その飯田市には「人形劇三国志」で使用されたオリジナルの人形が百数十体。ほか「道成寺」などの人形アニメーション作品、晩年に製作した「平家物語」の人形が数十体ある。

 

曹操の人形/東京渋谷区の川本喜八郎人形ギャラリーにて(2022年6月)

 

 そして、もうひとつが渋谷駅直結の商業施設ヒカリエの川本喜八郎人形ギャラリー。こちらは飯田とは逆に、撮影時に使われたオリジナルの「平家物語」人形が176体、「三国志」人形が48体ある。「三国志」人形は新作だが、まぎれもなく喜八郎本人の作品。晩年に心血を注いで製作したもので、飯田にあるオリジナルとほとんど見分けがつかないぐらいだ。

 

 渋谷の川本喜八郎人形ギャラリーは、渋谷のランドマークとして誕生したヒカリエの完成に合わせ、その8階に2012年オープン。約160㎡のスペースに美しい人形がズラリ。あたかも生きているかのような人形の数々を常時4050体ばかり展示。展示替えは基本的に年2回ある。

 

 喜八郎は東京都渋谷区出身で、以前は代々木にアトリエがあった。生前から地元の渋谷区に展示施設をつくろうという計画があり、最終的に140体くらいを製作、納品する予定であった。

 

 

川本喜八郎人形ギャラリー入口のビジュアル

 同ギャラリーの開館に携わった当時のスタッフによると2010年の春には「あと100体、完成させますよ!」と、喜八郎は力強く語っていたという。しかし、その数カ月後に帰らぬ人となり、新作の三国志人形は48体に留まった。

 

 渋谷区所蔵の三国志人形は、40年近く前の1980年代に製作されたオリジナルの人形とは、顔の造形や服装に多少の違いがある。その微妙な違いを見比べるのも面白い。ファンが集って思いを共有できる、都内では唯一ともいえる貴重な場である。

 

 2022年6月からの新展示では、三国志コーナーは「赤壁」をテーマに16体(曹操・諸葛亮・龐統・周瑜・魯粛・小喬など)が展示されている。過去には「君主と軍師・謀臣」「連環の計」「漢室の風雲」といったテーマに沿った展示が行なわれてきた。展示替え後の初日など、スタッフが新展示や川本人形の構造・からくりについて解説を行うワークショップが不定期ながら開催されている。

川本喜八郎人形ギャラリー。展示替え、飾り込みの様子(2022年6月)。展示以外の人形は近隣の保管庫に置かれ、センサーで温度や湿度の管理がはかられている。

 

「三国志人形は48体のため、コンセプトが限られてしまうのですが、どうにか工夫を凝らしています」とは、展示監修の平井徹(慶応義塾大学講師)さん。人形の選定や解説など監修に携わるほか、生前の川本さんとも親しく交流されていた。

 

「毎回、人形劇放映当時から関わられている浪花洽子さんや落合恵美子さんはじめ、スタッフの方々のお力を借り、川本喜八郎という作家の存在を感じていただけるような展示を心がけています」とも話す。

 

 渋谷での展示の目玉のひとつが、曹操の軍師・荀彧(じゅんいく)の若い頃をイメージして製作された「若荀彧」だ。実は人形劇『三国志』本編で荀彧は1話限り、老臣として登場しただけであったが、後年に若い姿で新たにつくられた人形が所蔵されているのである。今回の展示にはないが、時々展示されるので見逃さないようにしたい。

川本喜八郎人形ギャラリー。平家物語人形は貴重な放送当時のものを展示。(2022年5月撮影。現在の展示内容と異なります)

 平家物語コーナーでは「夢 静の巻・吉野雛の巻」などをテーマにした27体が展示。源義経や静御前、頼朝・政子などのほか、北条時政・宗時・義時もそろって展示され、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のファンも、思わずニヤリとしてしまうような魅惑的な展示だ。駅と連結してアクセスもしやすい渋谷ヒカリエ。入定無料、仕事帰りにふらりと寄れるのも魅力的だ。ぜひ一度、足を運んでみてほしい。

 

 余談ながら、本場の四川省にある武侯祠(ぶこうし=劉備や諸葛亮らを祀る聖地)の博物館にも、川本喜八郎が製作した諸葛亮人形が展示されている。何度も中国を訪れ、成都では人形に着せる服を作るための生地(蜀錦)を仕入れていた。そのような縁から、本人が持ち込みで寄贈したものだ。機会あれば、ご覧いただきたい。

 

■川本喜八郎人形ギャラリー

渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8

https://www.city.shibuya.tokyo.jp/shisetsu/bunka/kihachiro_gallery/

 

■飯田市川本喜八郎人形美術館

長野県飯田市本町1-2

https://kawamoto-iida.com

 

※通常、館内は撮影禁止です。ご注意ください。
取材協力/渋谷区文化振興課、株式会社東急コミュニティー
取材/上永哲矢

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上永哲矢うえなが てつや

歴史著述家・紀行作家。神奈川県出身。日本の歴史および「三国志」をはじめとする中国史の記事を多数手がけ、日本全国や中国各地や台湾の現地取材も精力的に行なう。著書に『三国志 その終わりと始まり』(三栄)、『戦国武将を癒やした温泉』(天夢人/山と渓谷社)、共著に『密教の聖地 高野山 その聖地に眠る偉人たち』(三栄)など。

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