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江戸時代の貨幣制度は名将・武田信玄が考えついたものだった?

【江戸時代の貨幣制度 第1回】


江戸時代の貨幣制度は4で単位が繰り上がる四進法を採用していた。その祖は徳川家康を苦しめ続けた甲斐の猛将・武田信玄にあった。


徳川家康は、好敵手としての武田信玄のことをリスペクトしていたようで、徳川幕府を開いた後でも、信玄の領国であった甲斐では甲州枡など武田家独自の制度が継続されていた。
「武田信玄 川中嶋東都錦画 明治15年6月上演 猿若座」国立国会図書館蔵

 皆さんは、江戸時代のお金の単位をご存じだろうか。小判は確か1枚1両だよなあ。でも、そばは116文というし……。現在の日本ではお金の単位は「円」だけだが、江戸時代には複数の単位が使われていたのだ。ちなみに1両は、幕府が決めた基準だと、4000文。文は銭と呼ばれた通貨の単位である。江戸時代に幕府が発行した貨幣には紙幣はなかったので(幕末に紙幣が発行されたといわれているが、使用されなかったという)、すべて硬貨だった。

 

 1文は現在の貨幣価値に置き換えると大体30円くらい。たとえば、小判で11文の飴玉(あめだま)を1つだけ買ったとする。店は3999文の釣りを客に渡さなければならず、また、客の方も3999枚の1文銭を持って帰らなければならない。これはとても不便だ。実は、1両と1文の間に1分と1朱という単位があった。

 

 小判は楕円形の俗にいう小判形の金貨だ。1分は、身近なものに例えるとスマートフォンやデジタルカメラなどで使用するマイクロSDぐらいの大きさの金貨で、4枚で1両になる。分の下に朱があった。1分金と同じくらいの大きさの銀貨で、金貨もあったのだが、短期間で姿を消した。こちらは4枚で1分になる。

 

 ここまで読んできて「おやっ」と思った方もいるかもしれない。そう、江戸時代の通貨は今のように10進法ではなく、4進法であった。これは武田信玄が4進法の貨幣制度を採用していたので、それを徳川家康が受け継いだといわれている。

 

 武田信玄は、徳川家康の隣国・甲斐の武将で、隙あらば、その領地を奪取しようと虎視眈々と狙っていた。家康は、正面から対峙した三方ヶ原(みかたがはら)の戦いで、大敗を喫し、敗走しながら大きい方をもらしてしまったという逸話さえ伝わるほど怖い相手でもあった。

 

 普通ならそんな相手のことなど思い出したくもないのだろうが、徳川家康は他人のよいと思ったところを積極的に採り入れる人間であった。たとえば、参勤交代は豊臣秀吉が始めた制度であった。武田家のものとしては4進法の他に、「赤備え」と呼ばれる全身朱色の具足で統一された精鋭部隊がある。武田家の猛将として知られた飯富虎昌(おぶとらまさ)が始め、その後同じ武田の家臣・山県昌景(やまがたまさかげ)が引き継ぎ、武田家滅亡後、徳川家康はその遺臣たちを井伊直政(いいなおまさ)に引き取らせて「井伊の赤備え」としたのである。

 

 4進法ともうひとつ、現在と違うのは、金、銀、銅(銭)と通貨が3つあることだ。金は主に武士が使用する。だから庶民が小判を持って行ってそばを食べようすれば、「おつりがないから」とことわられる前に、「その小判はどうした」と訝しがられてしまう。

 

 銀は、主に西国で使用されていた。世界文化遺産になった石見銀山から産出された銀を使用していた歴史があり、徳川幕府はそれを払拭(ふっしょく)することができなかったのだ。

 

 銅(銭)は、1文という通貨の最低単位であったので、庶民が日常的に使用していた。つまり、3つの貨幣が同時に流通していたことになる。

 

 幕府が定めたレートはあったが、ほとんど守られておらず、レートが日々替わるため、両替商と呼ばれる商人が、手数料を取って交換していた。中にはシステムを利用して儲けている者もいた。『鬼平犯科帳(おにへいはんかちょう)』のモデルとなった、江戸の火付盗賊改役・長谷川平蔵(はせがわへいぞう)は、無職者と呼ばれていた犯罪者の更生施設を幕府からの資金だけでは足りず、資産運用した金で補填していたのだが、それが武士らしくないと上役に思われて、不遇のまま終わってしまったといわれている。

 

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過去記事

加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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