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巨大古墳築造にはどれだけの時間・人数・費用が必要だったのか?

巨大な古墳づくりは国家の大プロジェクトだった⁉

大阪府堺市にある仁徳天皇陵古墳。現在は宮内庁管轄域となっており、立ち入りが出来ない。墳丘の規模は世界一を誇り、三重の濠と外堤を含めると長さは800mを超える。

 仮に体長1㎝の蟻のために、残りの蟻たちが全長2・5mの墓をつくったならば、私たちは、その壮大な営みに、あきれてしまうことだろう。

 

 かつて、私たちの祖先はそれと同じようなことをした。

 

 5世紀につくられた仁徳天皇陵古墳は墳丘全長486m。応神天皇陵古墳の墳長は425m。人間の身長の250倍から300倍に近い。

 

 仁徳天皇陵古墳は、中国の秦(しん)の始皇帝陵や、世界的に知られる巨墓であるエジプトのピラミッド中最大といわれるクフ王の墳墓と比べてもそれらを超える。

 

 中井正弘著『仁徳陵』(創元社)に仁徳天皇陵古墳の工期、労働量、工費などの試算値の表がのっている。それによると工期は15年8ヵ月、延べ作業員は680万7000人(一日あたり2万人)、総工費796億円という規模だ。

 

 なぜ、なんのために、このような巨大な古墳が築造されたのであろうか。次のような理由が考えられる。

 

(1)天皇や朝廷の威信・威容、巨大な力を示すため。

 

『万葉集』の四二六一番の歌に、次のようなものがある。

 

「大君は 神にしませば 水鳥(みずとり)のすだく水沼(みぬま)を 都となしつ」(大君は、神でいらっしゃるので、水鳥の集まる沼でも、都となさった)

 

 立派な都や墓をつくることは、天皇の神のような力を、人々に示すことであった。中国でも、『漢書』の「高帝紀下」に次のような話がのっている。漢の劉邦(りゅうほう)の時代に、丞相の蕭何(しょうか)が、長安に未央宮(びおうきょう)を造営した。劉邦が長安に入ったとき、未央宮が、あまりに壮麗であるので、蕭何に怒っていった。

 

「天下がおののき、戦争に苦労すること数年、その帰趨(きすう)もわからないのに、こんな度はずれた宮殿をつくるとは、どうしたことか」

 

 蕭何が答えていった。

 

「できるだけ壮麗に造り、威光を示さなければ、天下はしたがわず、平定することはできないのです」

 

 テレビもマスコミもない時代、権力は視覚化される必要があった。人々の話の種となる材料が必要であった。

 

(2)大和朝廷が租税制度をもっていたこと。

 

 『魏志倭人伝』に、倭人は、「租賦を収む」と記されている。「租税をとる」というアイデアは中国からきたものであろう。大和朝廷も、租税制度をもっていた。稲などの収穫の一部を、朝廷に納めさせる制度である。「租税をとる」ことによって、「国家」は、はじめて、部族国家の域を脱する。強力な「国家」といえるものとなる。

 

 まず「租税」によって、戦争にとくに適した屈強な若者たちを、「兵士」として雇う。それらの「兵士」は、戦争だけに専念することができる。組織的な訓練をうけることとなる。また「租税」によって、最新鋭の武器を購入することができる。最新鋭の武器をもち、組織的な訓練をうけた兵士たちによって、王朝を守らせることができる。そして支配地域を拡大させうる。拡大された支配地域から、また「租税」を収奪することができる。

 

「租税制度」は、武力を、すなわち、国家権力を、拡大再生産させうるシステムである。各地に、皇族将軍たちをつかわし、帝国主義的な植民地政策をとったといえる。

 

 かくて、厖大(ぼうだい)な量の租税と、流民とが、都に流れこむこととなる。稲などの「租税」は、貨幣などと異なり、ほうっておけば、腐敗する。流民たちは、ほうっておけば、社会を不安定にする。流民たちに食糧を与え、巨大な墓を築かせることは、天皇の権威を示すことになるとともに、社会を安定させる。素朴な形のケインズ主義的政策ともいえる。

 

(3)新技術の導入・開発。

 

 巨大な墳墓を築造する技術は、治水や、灌漑(かんがい)、道路の整備などのインフラをととのえる技術と、相互に、転用可能なものであった。インフラ新技術の外国からの導入や開発は、農業生産力を中心とする社会の生産力、国家の力を強くするものとなる。

 

 応神天皇、仁徳天皇のころは特に大きな前方後円墳が築造された。朝鮮進出伝承のすぐあとのころであり、半島から冨や技術、労働力が流入した時期とみられる。このほか、副葬品や石室の形式に変化がみられ、前方後円墳のあり方は時世の変化と結びついているように思われる。

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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