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古代の「大王と王」の関係は、江戸の「将軍と藩主」に似ている?

[入門]古墳と文献史学から読み解く!大王・豪族の古代史 #053


大和王権が確立すると、大王(天皇)が最高位の権力者として登場する。しかし、王権が確立する前の段階には、相当多くの王が各地に存在したはずだ。中心地の大和地方を統一する段階では、各地にどんな王がいて、どのように大王を盟主としたのだろう? 今回は大王を支える「王」について考えてみたい。


 

江戸期の藩主のような立ち位置だった「古代の王」

5世紀の大王墓と同格の埋葬基準だった葛城氏の前方後円墳室宮山古墳の長持ち型石棺(奈良県御所市)撮影:柏木宏之

 古代史には「王」がたくさん出てきます。そして「大王」がいます。王の中でも一番トップにいるのが「大王」なのだというのはわかります。しかし、その大王の元には、どれだけの王がいたのでしょう? また、その「王」とはどんな人たちだったのでしょうか?

 

 古代を知るには「遺跡」の調査、そしてその遺跡から発見される「遺構」の調査。さらにその遺構から出てくる「遺物」の研究が不可欠です。もちろん古墳は重要なヒントを与えてくれます。

 

 よくニュースなどでは「王墓級・首長級の墓」とか「この地域の盟主の墓」、「群集墳の中でも特別な墓」などと表現されます。

 

 それは墳墓(ふんぼ)の大きさや形式、石室・石棺、石積みの加工や仕上げ、墳丘の段数、供えられた埴輪(はにわ)やその種類、そして文献や伝承との比較などによって時代や被葬者が推定されます。

 

 大和王権が確立すると、現代の天皇家につながるとされる大王が登場します。

 

 いわゆる神武(じんむ)・綏靖(すいぜい)・安寧(あんねい)・懿徳(いとく)・孝昭(こうしょう)・孝安(こうあん)・孝霊(こうれい)・孝元(こうげん)・開化(かいか)・崇神(すじん)・・・と続く皇統譜の始まりです。その頃に「王」と呼ばれる人達はいたのでしょうか?

 

 ここで少し視点を変えて、江戸時代に実権を握っていた武家社会の構成をみてみましょう。トップは徳川の征夷大将軍です。

 

 そして三百諸侯と呼ばれた、各地の藩にも殿様がいました。そこには御三家と呼ばれる将軍候補を出せる大名家もありました。いわゆる親藩・譜代・外様という位置づけです。

 

 江戸時代は、食料生産力(石高=兵糧)や良質な木材を豊富に生産する藩、武力に長けた藩、塩やそのほかの重要必需品を生産する藩、市場経済に長けた藩などの殿様は一目置かれていました。

 

 この様子をそのままトレースする形で古代を眺めるとよくわかります。

 

 つまり、大王宗家があって、その親族王家もあって、さらに外戚家、譜代家、外様家とあったのでしょう。古代と江戸時代で大きく違うのは、大和王権成立前に、すでに強大な勢力と新文化を持って渡来して来ていた豪族グループが中核だったことでしょう。

 

 そういった価値観で古代を眺めると、稲作文化や金属器文化に長けた渡来集団が大和王権を確立する時に重要視されたのは間違いありません。さらにそれぞれが祀る祖先や系譜を表す神々、それに付随する文化を誇る豪族は重要視されたことでしょう。

 

6世紀の大王墓と同格の石棺巨勢氏の円墳・水泥(みどろ)南古墳家型石棺(同御所市)撮影:柏木宏之

 

 古代には有力な豪族として、大和王権確立前夜に鴨氏、葛城(かつらぎ)氏、巨勢(こせ)氏、秦氏、大和王権確立時には蘇我氏、物部氏、大伴氏などが大勢いました。

 

 これら豪族のリーダーは、全員が王だったと考えてよいでしょう。特に王権確立前夜の大豪族は大王家も一目置く王だったはずです。ですから皇統譜の初めの大王は、鴨氏や葛城氏などの大豪族から后を入れて関係を強くしているのでしょう。

 

 王墓と同じ長持ち型の石棺や家型石棺に埋葬された豪族こそ、盟主や有力者どころか、大和王権を支えた王達だったと考えざるを得ません。

 

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柏木 宏之(かしわぎ ひろゆき)
柏木 宏之かしわぎ ひろゆき

1958年生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒業。1983年から2023年まで放送アナウンサー、ニュース、演芸、バラエティ、情報、ワイドショー、ラジオパーソナリティ、歴史番組を数多く担当。現在はフリーアナウンサーと同時に武庫川学院文学部非常勤講師を務め、社会人歴史研究会「まほろば総研」を主宰。2010年、奈良大学通信教育部文化財歴史学科卒業学芸員資格取得。専門分野は古代史。歴史物語を執筆中。

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