×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画

映画『オペレーション・ミンスミート』で分かる! ヒトラーを欺き第二次世界大戦の流れを変えた諜報作戦

歴史を楽しむ「映画の時間」第28回 


第二次世界大戦の流れを変えた諜報作戦を映画化した『オペレーション・ミンスミート ーナチを欺いた死体ー』。英国軍はシチリア侵攻を確実にするため、死体に偽装書類を持たせるこの秘密作戦を実行した。ヒトラー率いるドイツ軍を欺むこうとした、フィクションのような作戦とは一体どんなものだったのか? 


イギリス諜報部員たちが実行した、ヒトラーを欺いた欺瞞作戦の実態とは?

 

© Haversack Films Limited 2021

 『オペレーション・ミンスミート─ナチスを欺いた死体─』は第二次世界大戦中、実際に行われたイギリスの諜報部員たちによる〈欺瞞作戦〉の実態をジョン・マッデン監督が描いた作品である。

 

 1943年、ヨーロッパはヒトラー率いるナチスによって占領され、連合軍は反撃の機会を窺っていた。イギリスのチャーチル首相は、ヨーロッパ奪還の突破口として、シチリア島への上陸を主張。だがそこには、ナチスの大軍が待ち構えていた。そこで計画されたのが、連合軍の上陸場所がシチリア島ではなく、ギリシャだとヒトラーに思い込ませる〈ミンスミート〉作戦だった。

 

 その内容は死体をイギリスの高級将校に仕立て、ヒトラーを騙すための偽の機密文書を持たせて、ナチス勢力圏内の海岸に漂着させる。死体が持っていた文書をナチスのスパイに読ませて、スパイを通してベルリンのヒトラーに知らせ、その内容を信じ込ませようとするもの。

 

 実は死体を使って偽の機密計画を敵に信じ込ませるという作戦は数年前に、この当時英国海軍諜報部にいた、後の『007』シリーズの作者イアン・フレミングが創案していて、これを海軍の諜報部員ユーエン・モンタギューと英国情報部(МI)のチャールズ・チャムリー大尉が現実化したものだった。

 

死体を探し、実在しない海兵隊員の過去、そして現在の生活をでっち上げていく

© Haversack Films Limited 2021

 映画ではユーエン(コリン・ファース)とチャールズ(マシュー・マクファディン)を中心に〈ミンスミート〉作戦の詳細が描かれ、彼らの協力者としてイアン・フレミング(ジョニー・フリン)も登場。フレミングが上司のゴドフリー提督を“М”という愛称で呼んでいるのが、『007』シリーズのファンには嬉しいポイントでもある。

 

 作戦はまず死体探しから始められるが、条件に合った死体を見つけるのが一苦労で、ユーエンたちは変死した路上生活者の死体を、やっとのことで発見。次にこの死体を〈英国海兵隊ビル・マーティン少佐〉に仕立て上げるため、彼の過去から現在の生活までをでっちあげていく。

 

 架空の恋人パムを創造し、彼女の写真を死体に持たせることにするが、ここで登場するのが英国海軍で働いていたジーン・レスリー(ケリー・マクドナルド)。ジーンは写真を提供する代わりに、自分も作戦に参加したいと主張し、マーティンとパムがデートしていた証拠を作るために、ユーエンと一緒にクラブへ通い出す。

 

 架空の人物を演じる二人が、やがて愛を感じ始めるのが映画の見どころだが、歴史ファンなら作戦のディテールがかなり細かく描かれているところに注目してほしい。死体に持たせるカバンの材質からその傷み具合、カバンの中に入れる財布や身分証は勿論、パムのために買った指輪のレシートやラブレター、銀行支店長からの貸越の手紙まで、マーティンのキャラクターを創造して、すべての小物が作られていく。

 

偽の機密文書がヒトラーに届く可能性に賭けたチャーチル首相

© Haversack Films Limited 2021

 ニセの機密文書も本当の暗号で書かれていて、それもナチスが何とか解読できる最新の暗号を使って作成された。さらに手紙やラブレターの紙質、インクの色や手紙の中身まで何度も検討され、リアリティのある死体を作り上げていく過程が面白い。

 

 すべての準備が整った死体は、ナチスのスパイが近くにいるスペインの海岸に流されるが、最初に書いたようにこの死体にスパイが注目して、文書を読むかどうかは大きな賭けだったはず。その内容がヒトラーに届くことは、さらに望みが薄かったと思われる。そのかすかな可能性を信じて、作戦にゴーサインを出したチャーチル首相も大したものだが、実際に成功したことは奇跡に近い。

 

 結局連合軍は1943710日、シチリア島に無事上陸。この成功が翌年のノルマンディー上陸作戦へと繋がって、ナチスを崩壊へと導く。そのきっかけを作った、まるでフィクションのような作戦の真実を、この映画で味わってほしい。

 

 

【映画情報】

2月18日(金)よりTOHO シネマズ日比谷他 全国公開にて劇場上映

『オペレーション・ミンスミート ーナチを欺いた死体ー』

 

© Haversack Films Limited 2021

監督/ジョン・マッデン

出演/コリン・ファース、マシュー・マクファディン、ケリー・マクドナルド、

   ペネロープ・ウルトン、ジョニー・フリン、ジェイソン・アイザック

時間/128分 製作年/2022年 製作国/イギリス

 

公式サイト

https://gaga.ne.jp/mincemeat/

 

KEYWORDS:

過去記事

金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

最新号案内

歴史人 2022年10月号

戦国大名の勢力変遷マップ

応仁の乱から大坂の陣まで、戦国武将の勢力変遷を「戦国変遷マップ」で読み解く一冊。約150年にもわたる戦国時代には、明応の政変や三方ヶ原合戦など、節目となった合戦や出来事があった。それらを交えながら、北条早雲や織田信長、武田信玄、豊臣秀吉、伊達政宗、そして徳川家康らがしのぎを削った時代の勢力図を分かりやすく解説。特別企画では、「早わかり日本史」などの書籍で知られる歴史作家の河合敦氏が、戦国時代の魅力について新しい視点で語ってくれる。人気の戦国時代を頭から終わりまで見通せる、保存版の一冊。