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「地名の基礎知識」ー川・山などの様子から生まれたユニークな地名

「歴史人」こぼれ話・第19回


地名には多くの場合、その土地の由来が込められており、歴史や文化、生活など様々な背景が見えてくる。今回は川や山などの自然の地形を手がかりに、ユニークな地名を探る。


 

水・川に由来する地名は?

利根川沿いの川に関する地名 地図/戸澤徹

 日本の地名の特色としてあげられるのが、同じ地名が数多く点在するという点だろう。

 

 理由は、日本の地名の多くが、地形に基づく自然地名だったからである。

 

 川、山、野原、坂、谷(沢)、海岸、岬の7種類の地形にちなんで名付けられることが多かった。

 

 川の場合、利根川を例として取り上げてみるのが分かり易い。

 

 河口から横流に向かって、笹川、阿玉川、小見川、滑川、布川、江川、川俣、渋川、小川と、川の作る地名だけでもこんなにある。

 

 さらに、川に関係のありそうな「河」「沼」「岸」「江」などを加えれば、数え切れないほど連なっていることがわかるはずである。

 

 また、二つの川が出会うところは「落合」や「二俣」「等々力」、流れが速いところには「瀞」の付くこともある。形状だけでなく、状況に応じた地名が出来上がっている。

 

 また、ところは変わるが、滋賀県守山市にある「浮気」(ふけ)」とは、澤の池、水がふけるの意味だ。野洲川(やすがわ)の伏流水が至る所から湧き、泉や小川となって里中を流れ、常に水気が立ちこめていたという風景から呼ばれたという。

岩手県大槌町の駅名に残る吉里吉里駅/フォトライブラリー

 

山にちなむ地名「岳」「峰」「根」「尾」

 

 山にちなむ地名には、「山」ばかりか、「岳」「峰」「根」「尾」などが付けられることも少なくない。森林にちなむ地名には「守」「茂理」「母里」「毛利」などが、野や原にちなみ地名にも「大野」「小野」「大原」「原」などが付けられるなど、枚挙にいとまがないほどである。

 

 岩手県宮古市の浄土ヶ浜から北10数キロの真崎海岸にある島の名前は、何と「がっかり島」と呼ばれている。

 

 幅20mほどの小さな島で、確かに大した島ではないから、見るだに「がっかり」しそうだが、本来の意味は違う。ここでいうところの「がっかり」とは、崖が多いことを表す方言だというからユニークだ。

 

 その他、岩手県大槌町にあった「吉里吉里」(きりきり)は吉里吉里浜の砂を踏む音から地名が名づけられたと金田一京助は紹介している。アイヌ研究の碩学・知里真志保は「アイヌ語で白砂のことである」と書いており、主張が分かれていて、現在でも諸説ある。

 

上信電鉄の駅名に残る南才井駅/フォトライブラリー

 アイヌの地名から転じたと思われる東北・北関東の地名

 

 その他、ユニークな地名についても触れておきたい。

 

 群馬県富岡市にある上信電鉄の駅名に付けられた南蛇井である。南蛇井と書いて「なんじゃい」と読む。もとは南才井と書き、「なんさい」あるいは「なんざい」と呼ばれていたところで、次第に「なんじゃい」に転訛していったようだ。

 

 アイヌの遥か古い時代、土着していたアイヌ民族の「ナサイ」(川の幅が広いところ)というアイヌ語が語源。ナサイが古墳時代~中央集権国家成立の頃には「那射(ナサ)郷」となり、さらに転じて「ナンジャイ」となった。そこに「南蛇井」という漢字をあてたともいわれている。

 

 奈良時代には、すでに南蛇井氏という豪族が存在している。

 

 さらに、山口県長門市にある向津具も異色。

 

 字を見ただけではさほど目をみはるものではないが、読みが「むかつく」となれば、俄然、ユニーク度が増す。

 

「向こうの国」を意味する「向国(むかつくに)」に由来するのだとか。それが転じたとする説がある。

 

 このようにユニークな地名は、まだまだ数多く存在している。

 

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過去記事

藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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