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映画『ベロゴリア戦記』が本国で人気の理由はロシア民間伝承の有名キャラが大集合だから?

歴史を楽しむ「映画の時間」第25回 


ディズニー・ロシアが製作し、本国で大ヒットしたファンタジー『ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣』に続いて、『同 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師』が明日12月3日より公開される(第1章は現在公開中)。そのヒットの理由と映画の魅力を、ロシアの民間伝承の有名キャラクターを通して紐解いてみる。


第2章より Ⓒ
Disney 2020 Ⓒ YBW Group 2020

口先だけで生きてきた男がベロゴリア王国の命運をかけた戦いへ

第1章より Ⓒ
Disney 2017 Ⓒ YBW Group 2017

 この作品は詐欺師でいい加減な現代の青年・イワンが、ひょんなことから異世界のベロゴリア王国へとワープして、この国の存亡を賭けた戦いに巻き込まれていくもの。

 

 第1章では戦いの鍵を握る伝説の魔法の剣を探す旅がメインになり、第2章ではベロゴリア王国と現代を行き来しながら暮らすようになったイワンが、新たな王国の危機に立ち向かう姿が描かれる。

 

その場しのぎの調子の良さで危機を潜り抜けていくコメディ・タッチ

第1章より Ⓒ
Disney 2017 Ⓒ YBW Group 2017

 

 ほぼ特殊能力を持たないイワンが、その場しのぎの調子の良さで、何とか危機を潜り抜けていくコミカルなタッチの作品で、基本はコメディ。

 

 第1章はRPG(ロール・プレイング・ゲーム)のスタイルで、イワンと魔法の剣を探す旅に出る仲間として、スラブ民話の登場する魔女バーバ・ヤーガや、不死身の男コシチェイ、カエルになる呪いをかけられた美女ヴァシリーナが登場。ヴァシリーナとイワンとの愛も絡めて、波乱万丈の旅が描かれていく。

 

バーバ・ヤーガの小屋、東欧の水の妖精ヴォジャノーイらロシア・ファンタジー界のオールスターが勢揃い

第1章より Ⓒ
Disney 2017 Ⓒ YBW Group 2017

 バーバ・ヤーガはムソルグスキー作曲の組曲「展覧会の絵」にも題材として扱われているが、あの曲に出てくる彼女の棲家“鶏の足の上に立つ小屋”が、ペットのように動き回るのも可愛い。また途中で彼らのチームに参加するヴォジャノーイは、東欧に伝わる水の妖精で、ロシアでは魚の支配者と呼ばれていて、映画ではやはり魚たちの王として現れる。

 

 このようにロシアでは民間伝承で有名なキャラクターが、一堂に会したロシア・ファンタジー界のオールスター・キャストと言ってもいい顔ぶれが見ものだ。

 

ロシアの口承叙事詩ブィリーナに登場する大英雄イリヤとは?

第2章より Ⓒ
Disney 2020 Ⓒ YBW Group 2020

 中でも注目されるのが、イワンがイリヤ・ムウロメツの子供という設定だろう。

 

 イリヤ・ムウロメツは、ロシアの口承叙事詩ブィリーナに登場する大英雄で、凶暴な巨人と兄弟の契りを交わし、怪鳥や亡霊を退治して、タタールの大軍と闘った勇者とされている。

 

 イリヤの伝説はロシアで映画にもなっていて、フルシチョフ政権時代の1956年に製作日数4年、106000人の人員を投入した超大作『豪勇イリヤ/巨竜と魔王征服』が作られている。

 

キングギドラにヒントを与えたといわれる三つ首の竜

 

 この作品では魔王が率いるトガール人の大軍にイリヤが闘いを挑んでいくのだが、魔王の最後の切り札として三つ首の巨大な竜が登場。火を吐きながら空を飛ぶシーンはミニチュアだが、地上に降りてからの竜は実物大で作られており、その口から火炎放射器の炎が出てくる場面はかなりの迫力だ。

 

 この三つ首の竜は、1964年に日本でゴジラの敵としてデビューしたキングギドラにヒントを与えたともいわれ、映画自体は手塚治虫や筒井康隆も印象に残る作品として挙げている。

 

大ヒットの理由はロシアの民間伝承に起因するシーンが満載だから!?

第2章より Ⓒ
Disney 2020 Ⓒ YBW Group 2020

 さて今回の映画では、イワンに惚れる凶暴な女巨人が出てくるが、これはイリヤが巨人の妻に一方的に惚れられて彼女と一時関係を結んだエピソードのパロディ。

 

 また三つ首の竜も出てくるが、これが手のひらサイズの小さい竜なのが笑える。

 

 加えてイワンを陥れるベロゴリア王国の支配者ドブリーニャは、伝承ではキエフでイリヤと親交のあった英雄で、その人物が裏切るところもポイントだ。

 

 このように、日本で言うならCМシリーズの三太郎(桃太郎、金太郎、浦島太郎)が揃った感じの有名キャラクターが活躍する物語で、ロシアでの大ヒットもうなずける。日本人にはピンと来ないという人も多いだろうが、映画を観る前にその背景を知っていれば、作品がより楽しめること請け合いだ。

 

 本国では第3章が12月に公開されるとのことで、こういうローカルなディズニー・レーベルのファンタジーは、今後いろんな国でもっと企画されていくのかもしれない。

 

 

【映画情報】

2作連続全国ロードショー

『ベロゴリア戦記』

第1章:異世界の王国と魔法の剣(公開中)


Disney 2017 Ⓒ YBW Group 2017

監督/ドミトリー・ディアチェンコ

出演/ヴィクトル・ホリニャック、ミラ・シヴァツカヤ、エカテリーナ・ヴィルコワ、コンスタンチン・ラブロネンコ「ワールドエンド」、エレナ・ヤコブレワ、セルゲイ・ブルノフ

時間/114分 製作年/2017年 製作国/ロシア

 

第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師(12月3日金曜日より)


Disney 2020 Ⓒ YBW Group 2020

監督/ドミトリー・ディアチェンコ

出演/ヴィクトル・ホリニャック、ミラ・シヴァツカヤ、エカテリーナ・ヴィルコワ、コンスタンチン・ラブロネンコ「ワールドエンド」、エレナ・ヤコブレワ、セルゲイ・ブルノフ

時間/121分 製作年/2021年 製作国/ロシア

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金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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