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恋みくじもフォーチュンクッキーも…全てのルーツは「比叡山」にあった!

桂紗綾の歴史・寄席あつめ 第9回


『歴史人』ファンの皆様、私、大阪の朝日放送アナウンサー・桂紗綾と申します。このコラムでは、落語を中心に“伝統芸能と歴史”について綴って参ります。どうぞよろしくお願い致します(第1回コラムはこちら)。普段、アナウンサーとして働いている私ですが、もう一つの肩書が社会人落語家です。30歳を過ぎた頃からのめり込み、気付けば自分でも高座に上がるようになりました。落語は戦国時代から続く(諸説あり)話芸であり、民衆にも親しまれ、時代を反映した大衆芸能です。その他の伝統芸能(講談や浪曲・文楽・歌舞伎等)にも影響を受け、もちろん歴史とは切っても切れない関係なのです。


 

 古典落語の名作で『中村仲蔵』という一席があります。

 

 現在は空き名跡である歌舞伎役者の中村仲蔵(なかむらなかぞう)。初代は江戸時代中期に活躍した名優で、下積みの苦労を経て自らの芸を確立させた実在の人です。その名を後世に残すきっかけとなったのが『忠臣蔵』五段目・山崎街道の斧定九郎(おのさだくろう)という役。

 

『忠臣蔵大序其一・忠臣蔵大序其二・忠臣蔵大序其三』  現在、歌舞伎のなかで「時代物」と呼ばれるのは、江戸時代よりも古い時代に公家や武士の社会で起こった事件を題材した演目。『仮名手本忠臣蔵』はそのなかでも『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』と並び、歌舞伎の三大名作と呼ばれる人気演目である。江戸時代より常に人気を博し、歌舞伎界でもなくてはならないものとなっている。(国立国会図書館蔵)

 

 当時は演目を書いた名題看板が芝居小屋入口に掲げられ、主要な役者はそこに名前を書いてもらえた。そこから人気役者は名題役者・看板役者と呼ばれるようになりました。名題は座頭に次ぐ階級。

 

 しかし、大部屋役者だった仲蔵が名題に昇進した直後にあてがわれたのは、端役の斧定九郎。赤穂の浪人が山賊に身を落としている設定で、夜具縞(やぐじま)のどてらに山刀を携え、顔はひげもじゃらで赤塗り。しかもこの場面は、客席で皆食事をとる弁当幕の時間。仲蔵は憤りますが、自分らしい工夫を凝らし立派な定九郎に仕立てようと決意します。しかし、いくら思案しても良いアイデアは出てこない。

 

 そこで、日頃信心する柳島の妙見さんに願掛けへと日参します。満願の日、未だ何も浮かばない仲蔵はにわか雨に降られ、蕎麦屋で雨宿り。途方に暮れていると、そこに飛び込んできたのが浪人風のお侍。月代(さかやき)が伸び、色白で髭の剃り跡が青々とした苦み走ったいい男。黒紋付の単衣に献上帯、後ろを高ばしょりにしているので足がすらっと見えている。濡れた月代をしごくと、雫が仲蔵の方に飛んでくる。冷酒を飲み干し、傘を半開きで、また雨の中を駆けていく。つむじ風の如く現れ消えた侍に、仲蔵は自分が演じるべき斧定九郎の姿を見出しました。妙見さんの御引き合わせだろうとお礼参りに。おみくじを引くと「人人人」の良い卦。これを元に、人の字を三つ合わせたものが仲蔵の紋所になります。芝居初日、仲蔵はあの侍の恰好を真似て、全身白塗り。血糊を胸元に仕込み、黒紋付に白献上の帯、腰には朱塗りの大小。頭から水をかぶりずぶ濡れ。

 

 水もしたたるええ男でございます。

 

 濡れた番傘を手に花道を走る。舞台上で振り向き、傘を開くと雫が客席に舞い、同時に見得を切る。野蛮さの中にも漂う品と艶。白い肌と鮮血のコントラストで魅せる死に様は、狂気と熱気を帯びている。誰も見たことのない定九郎が生まれ、客席も幕内も驚き感嘆しました。それから斧定九郎は皆が憧れる役になり、今もその形で演じられています。

 

 これが落語『中村仲蔵』のあらすじなのですが、今回のコラムのメインテーマは仲蔵そのものではありません。仲蔵おもたら違うんかーい!…と言われそうですが()、メインは仲蔵も引いた“おみくじ”のことです。

 

『歴史人』11月号には天台宗の開祖・最澄が特集されていますが、是非一度、最澄が築いた比叡山延暦寺を訪れてみて下さい。荘厳で崇高な空気が味わえ、心が自然と穏やかに清らかになるところです。私が比叡山延暦寺の東塔・西塔・横川(よかわ)を巡った時に驚いたのが、横川にある元三大師堂(がんざんだいしどう)が“おみくじ発祥の地”ということでした。

 

「おみくじ発祥之地」の石碑
比叡山延暦寺の境内、元三大師堂に立つ。

 

 今皆さんがお寺や神社で引くおみくじの原型は、平安時代の天台宗僧侶で比叡山中興の祖・元三大師が観音菩薩様から授かった御言葉を書いたものだと言われています。また、元三大師は“角大師”とも呼ばれていて、こちらはアマビエが流行るず~っと前から厄除けとして用いられてきた護符なのです。

 

桂紗綾アナウンサー

 世間に疫病が蔓延した際、元三大師は人々を救うため、大きな鏡に自分の姿を写し禅定に入りました。すると、鏡には痩せ細った鬼が現れた。その姿を描き写し、お札に刷って配ると、護符を戸口に貼った家は一切の災厄から免れるようになったのです。今でも京都の街中を歩くと、軒先や戸口に、この角大師護符が貼られています。

 

 話を元に戻しましょう。中村仲蔵がおみくじの卦を自分の紋にしたことは御利益への感謝の気持ちと、苦心し芸を磨くことを忘れないためでしょう。

 

 簡単に答えや結果が出るわけではない芸道だからこそ、験担ぎを大切にしている芸能者の方は多くいらっしゃいます。天命を教えてもらえるおみくじを大事にすることも、その一つだったのでしょうね。

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桂 紗綾()
桂 紗綾

ABCアナウンサー。2008年入社。女子アナという枠に納まりきらない言動や笑いのためならどんな事にでも挑む姿勢が幅広い年齢層の支持を得ている。演芸番組をきっかけに落語に傾倒。高座にも上がり、第十回社会人落語日本一決定戦で市長賞受賞。『朝も早よから桂紗綾です』(毎週金曜4:506:30)に出演。和歌山県みなべ町出身、ふるさと大使を務める。

 

『朝も早よから桂紗綾です』 https://www.abc1008.com/asamo/
※毎月第2金曜日は、番組内コーナー「朝も早よから歴史人」に歴史人編集長が出演中。

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