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なぜ中国の歴史はこれほどまでに日本人を虜にするのか⁉ ─中国史人気の歴史を紐解く─

世界中で愛される「中国の歴史」のエンタメとしての力を考える


 2000年代に日本を席巻した韓流ブームを覚えているだろうか? それとすり替わるように近年、日本でリリースされる中国時代劇ドラマがブームとなっていることをご存じだろうか? 巨額の製作費で豪華絢爛な歴史絵巻を見せる中国ドラマへの注目は日本のみならず世界中で高まり続けているという。歴史のなかでも日本人は「三国志」をはじめとし、常に魅了され、楽しんでいる。現代では、豪華な宮廷模様の中で繰り広げられる人間模様を描くものに特に人気が集まっており、壮絶なストーリーに惹きつけられる。
 2021年にも中国で大ヒットした歴史群像劇が誕生。契丹族が樹立させた、中国初の征服王朝・遼の歴史で国家統一を果たした伝説の皇后の激動の生涯を描いた『燕雲台-The Legend of Empress-』は、中国国内でTV 視聴率&配信ランキング1 位となり、このたび日本へと上陸する。
 これを機会に本記事では改めて「中国史の日本における人気の歴史と真相」に迫りたいと思う。


世界中が虜になる中国の歴史のおもしろさを考える

 世界中で愛されている『三国志』を筆頭に、中国史はエンターテインメントとしての魅力にあふれています。筆者はマイナーな地域の歴史を学んでいたので、他にもおもしろい歴史物語はあるぞ、と声をあげたいところですが、質量ともに豊富な中国史由来の物語には、やはり圧倒されてしまいます。同じアジアの歴史ということで、感性が似ているのか、日本人にはとくに受けいれやすいようです。漢字が共通することで、名前に違和感がないのも大きいでしょう。

 

 中国史由来の物語は、江戸時代から日本人が親しんできた『三国志演義』『水滸伝』の他、金の侵攻に抵抗した名将を描く『岳飛伝』、唐の建国から安史の乱までをつづった『隋唐演義』、宋の楊一族の戦いをテーマにした『楊家将演義』など、枚挙に暇がありません。これらは古くから語り継がれ、読み継がれてきたものですが、それ以外にも王朝の交代や割拠の時代、さらに名将の生き様などにそれぞれドラマがあり、新たなストーリーを生み出す土壌があります。

水滸伝豪傑双六江戸時代に販売されていた水滸伝の名言双六。江戸時代から日本の子供から大人までが中国の歴史ものに魅了されていた。(国立国会図書館蔵)

 中国史がこれほどおもしろいのはなぜか。その理由はいくつか考えられるのですが、ここでは三点にしぼって解説してみたいと思います。

 

 まず、歴史書『史記』の存在があげられます。これは紀元前一世紀、前漢の時代に司馬遷が著したもので、その後の歴史書執筆の流れをつくりました。『史記』が語る春秋戦国時代のドラマや楚と漢の覇権をめぐる争いは、漫画やアニメとしてヒットしている『キングダム』や司馬遼太郎の小説『項羽と劉邦』など日本でも多くの作品の題材となっています。

 

 しかし、後世のエンターテインメントに対する『史記』の貢献は、単に題材を提供したことにとどまりません。

 

 重要なのは、紀伝体です。紀伝体は、皇帝の年代記である本紀(紀)と、宰相や将軍たちの人物伝である列伝(伝)を中心に構成される歴史書の形式です。『史記』から始まり、その後の正史にも踏襲されました。

 

 この列伝がおもしろいのです。『史記』では、有名な項羽の物語のように、本紀も臨場感あふれる描写でドラマチックに描かれますが、後の歴史書では段々と無味乾燥な記述、紋切り型の表現が多くなります。対して列伝は、文官や武将のエピソードが豊富に含まれています。どこそこの戦いでどう活躍したとか、若い頃こんなことを言っていたとか、遺言はどうだったとか、まるで見てきたような話が書いてあるわけです。『烈女伝』『忠義伝』『姦臣伝』といったジャンル分けがされている歴史書もあります。

 

 列伝が残っているから、後世の人々は、必ずしも主役でない人物の言動を知ることができます。また、将来の列伝掲載にそなえて、記録を残しておこうという気持ちも働きます。そして、列伝に加えてもらおうとして、格好いい行動をとりたがる人たちも出てきます(もちろん、かまわずに悪事を働く人もたくさんいます)。列伝のおかげで、歴史の物語に血肉がつき、色彩が豊かになっていくのです。

 

 これが他の地域のように年代記しかなかったら……歴史物語を創るハードルはあがるでしょう。多くの年代記は王や皇帝を褒めたたえるのが目的ですから、臣下の事績に多くの巻は割きません。別に資料があればいいのですが、生き生きとしたエピソードは作家が生み出すことになるでしょう。大勢の登場人物が出て来る大河ドラマは、創りにくくなるにちがいありません。

 

 中国には膨大な数の歴史的な文献が残っており、さらに正史を編纂する伝統がありました。なかでも『史記』に始まる紀伝体の歴史書は、多くのエピソードを伝えてくれます。そのため、歴史物語が生まれやすくなるのです。

 

 次は素材そのものの魅力に注目してみましょう。まず、その空間的な広がりです。現代人はどうしても現代の国境をもとに歴史を考えてしまいますが、確固たる国境を引いてしまうと、中国史の魅力は半減してしまいます。開かれていることが、中国史のスケールの大きさにつながり、魅力のひとつとなっているからです。

 

 中華王朝の版図は時代によって大きく異なります。万里の長城も一本の線ではなく、様々な場所に造られました。中国の歴史は、周辺地域との関係によって形作られてきたものです。

万里の長城外敵の脅威を防御するために築かれた壁。約6200km以上にもおよび、その壮大さから中国がどれだけ苦しめられたかがうかがえる。

 なかでも軸となったのは、遊牧民と定住民の南北の関係です。蹄音をとどろかせて疾駆する騎馬軍団、空に橋をかける銀色の矢、草原を埋めつくす羊の群れ……遊牧民と聞いて心が沸きたつのは、私だけではないでしょう。遊牧民が強いときは淮河まで、いや江南の定住民までも支配下に収め、定住民が強いときは、遊牧民をモンゴル高原に追い払います。

 

 東西では、西域のオアシス諸都市、チベット、東北部、朝鮮半島、さらにはベトナムや雲南などの諸国、諸勢力と時には敵対し、時には支配し、時には友好的に交流してきたのが中国の歴史です。

 

 異文化との接触は、文明を発展させます。モンゴル時代の東西交流、とくに中国とイスラーム世界との文化、技術の交流が、人類社会の発展にどれだけ貢献したか……と、語ると話が大きくなりすぎます。

 

 しかし、敵であれ味方であれ、別の勢力と接している場所には常に刺激があり、ロマンがある、これはまちがいありません。長安、臨安、北京など、都の多くが国の中央ではなく、端に近い位置におかれていたのは、外に向かって開けていて、異文化と接触しやすいから、というのも理由のひとつです。

 

 様々な民族が織りなす攻防、虚々実々の外交、東西交易がもたらす市場の活気、そういった開かれているがゆえのダイナミズムや華やかさが、中国史の魅力なのです。

 

 もうひとつ、女性の活躍をあげたいと思います。中国史では女帝はただひとり、唐の時代に周という国を建てた武則天のみですが、歴史に名を残した女性は少なくありません。

則天武后中国史上唯一の女帝。悪女として知られ、自身の子供たちを廃立させ、帝位を獲得。周を建国した。(写真:TopFoto/アフロ)

 いわゆる漢民族の間では、纏足が象徴するように、女性は表に出るべきではない、という風潮がかつてはありました。ですから、どちらかというと、北方の遊牧民や狩猟民の色が濃い王朝で、女性が活躍する傾向があります。そして、政治に関わった女性は、儒教の伝統的な価値観から外れているので、どうしても悪く書かれてしまいます。清の末期、政権を握っていた西太后がその最たる例でしょう。満漢全席などの贅沢三昧で清を滅ぼしたと非難されていましたが、最近では、客観的な視点で彼女の政治の評価がされるようになってきています。

 

 女将軍という存在も中国史上に実在しました。ただ、女性は歴史書にあまり載らないのも確かで、物語の中でこそ彼女たちは輝きます。『水滸伝』『楊家将演義』では女性キャラクターが武勇を発揮しますし、ディズニー映画になった男装の少女「木蘭」の物語も人口に膾炙しています。歴史書ではくわしく語られなくても活躍した女性というのは、もっといたにちがいありません。女性の活躍については、稿を改めて述べたいと思います。

『燕雲台-The Legend of Empress-』より

 さて、『燕雲台-The Legend of Empress-』は、契丹と睿智蕭皇后、つまり遊牧民と女性がメインの物語です。漢民族=定住民と男性が主役に思われる中国史ですが、本当の魅力はそれだけではありません。これまで語ってきたように、むしろ遊牧民をはじめとする多彩な民族との関わり、そして女性の活躍が魅力を高めているのです。この物語をご覧いただければ、そのことを実感していただけるでしょう。

 

「燕雲台-The Legend of Empress-」DVD&Blu-ray

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公式サイト https://kandera.jp/sp/enundai/

2021 年度No.1 アジアドラマが堂々上陸!TV 視聴率&配信ランキング1 位!
「王女未央-BIOU-」ティファニー・タン主演!
愛と陰謀の渦中で、国家統一を果たした伝説の皇后の激動の生涯を描く、2021 年No.1 本格歴史エンターテイメント!

<STORY>
契丹(きったん)人の国である遼の北府宰相・蕭思温(しょうしおん)の三女・蕭燕燕(しょうえんえん)は、父親と長女・蕭胡輦(しょうこれん)、次女・蕭烏骨里(しょううこつり)の愛を受けて真っすぐで勇敢な女性に育つ。そして、彼女は漢民族ながら遼の朝臣である韓徳譲(かんとくじょう)と出逢い、国の未来へ大志を抱く2 人はやがて愛し合うようになる。一方、朝廷では暴君として恐れられる第四代皇帝・穆宗(ぼくそう)の座を狙い、権力争いが続いていた。そんな中、皇后を輩出する后(こう)族の筆頭である蕭家の三姉妹は、王位簒奪(さんだつ)の切り札とみなされていた。その結果、簫胡輦が穆宗の弟・耶律罨撒葛(やりつえんさつかつ)に、簫烏骨里が初代皇帝・太祖(たいそ)の孫・耶律喜隠(やりつきいん)に嫁ぐことに。残された簫燕燕は韓徳譲と婚約を結んでいたが、暗殺された前皇帝の息子で韓徳譲の親友である耶律賢(やりつけん)に見初められ…。

2021 11 日(水)リリース】
DVD SET1

話~第12  DVD6 /本編約540 /17,600 円(税抜16,000 円)
Blu-ray SET1>第話~第12  BD2 /本編約540 /19,800 円(税抜18,000 円)
レンタルDVD同時リリース

 

発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

毎月順次リリース

 

U-NEXT にて同時に独占先行配信開始 https://bit.ly/3hG72cd

予告編 https://youtu.be/yXu43W969YE

第1回 https://youtu.be/J66IEo7OTZE

©Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

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小前 亮こまえ りょう

らいとすたっふ

1976年、島根県生まれ。東京大学大学院修了。専攻は中央アジア・イスラーム史。2005年に中国歴史小説『李世民』(講談社)で作家デビュー。歴史小説を中心に、児童ものやノンフィクション、ミステリーも手がける。著書に『知られざる素顔の中国皇帝 歴史を動かした28人の野望 』(ベストセラーズ)、『姜維伝 諸葛孔明の遺志を継ぐ者』(朝日新聞出版)、『三国志』(理論社)、『朱元璋 皇帝の貌』(講談社)など多数。

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