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維新の志士や貿易商が稼いだお金を使い果たすほど男を虜にした【長崎・丸山遊郭】

全国津々浦々 遊郭巡り─東西南北で男たちを魅了した女たち─第1回(長崎・丸山 前編)


西でも東でも男たちを魅了した花街の歴史を探訪─

 

古今東西、花街は男たちの心をつかんで離さなかった。女性たちの魅力に溺れ、夜を楽しむ遊郭は、どれだけ歴史を変えても、そのにぎわいがやむことはない。もちろん、全国各地に遊ぶ場所は存在し、名称やしきたりは違えど、遊女たちが集まる場所には、男たちも集まり、一つの歴史と文化を作り上げた。そんな全国各地にあった遊郭の歴史を本連載では紹介。第一回となる今回は、海外との交易でにぎわい、商人たちが全国から集まった長崎・丸山に存在した遊郭の様子を解説する。


坂本龍馬をはじめ、維新志士たちも通った長崎の遊郭

図1『肥前崎陽玉浦風景之図』(貞秀、元治2年) 国会図書館蔵

 丸山は、長崎市にあった遊廓で、図1に、その全容が描かれている。

 

 ただし、描かれた元治二年(1865)はすでに幕末である。図1は、坂本龍馬が遊んだころの丸山と思ってよかろう。

 

 江戸時代初期の寛永十九年(1642)、それまで市中に散在していた妓楼(ぎろう)を丸山の地に集めて、丸山町と改称した。さらに、妓楼が多かった寄合町が隣接地に移転してきた。

 

 こうして、丸山町と寄合町を合わせた地域が、丸山遊廓と呼ばれるようになった。

 

『諸国色里案内』(空色軒一夢著、貞享5年)に、「長崎丸山之事」として――

 

 ここのおこりは、筑前の博多より、わずかに移り来たりしよりこのかた、百年ばかりにもならんか。いにしえの女郎町は古町といえる所なり。その後、古町を今の丸山に移し給いぬ。そのほか、長崎の町々に忍びの抱え女を、ここへ一緒に集め給いて、今の寄合町、これなり。

 

 ――とあり、博多から来た遊女や、長崎各地にいた遊女を集めて、丸山遊廓が形成されたのがわかる。

 

『長崎土産』(延宝9年)によると、

 

 妓楼 三十軒

 

 遊女三百三十五人(太夫/たゆう 六十九人)

 

 である。

 

 高級遊女である太夫が六十九人もいることから、遊廓としての繁栄がわかろう。

 

図2『長崎土産』(延宝9年) 国会図書館蔵

 図2は、延宝九年(1681)頃の丸山の遊女の姿である。右に立っているのは、清(中国)人。長崎ならではの光景といえようか。この点は、後述する。

 

 戯作『好色一代男』(井原西鶴著、天和2年)では、主人公の世之介が丸山で遊んだのはもう晩年の、五十九歳の時だった――

 

 入口の桜町を見渡せば、はや面白うなってきて、宿に足も止めず、すぐに丸山に行きて見るに、女郎屋の有様、聞き及びしよりはまさりて、一軒に八、九十人も見せかけ姿、

 

 ――とあり、桜町は長崎の目抜き通りである。

 

 つまり世之介は長崎に到着するや、気もそぞろになり、すぐに丸山に足を運んだ。そして、妓楼や遊女の繁盛の様子は、想像以上だったようだ。

 

 一軒の妓楼に、八~九十人も遊女がいた。

 

図3『好色一代男』(井原西鶴著、貞享元年) 国会図書館蔵

 図3は、世之介がながめた遊女の姿。

 

 戯作『日本永代蔵』(井原西鶴著、貞享5年)は、長崎には上方の豪商が有能な手代などを派遣し、海外との取引で巨利を得ていると記したあと――

 

 長崎に丸山という所なくば、上方の金銀帰宅すべし。

 

 ――と慨嘆(がいたん)している。

 

 せっかく長崎で儲けた金を、上方の本店に送らず、丸山遊廓で使い果たしている手代がいたのだ。丸山がなければ、上方の本店にもっと送金されただろうに、と。

 

 戯作『けいせい色三味線』(江島其磧著、元禄14年)は、丸山遊廓を丸山町と寄合町に分け、妓楼や遊女の名を紹介している。

 

 最高位の太夫と、その下の天神がいて、揚代も異なっていた。揚代は銀である。

 

 太夫 六十三人 三十匁

 

 天神 十六人  二十匁

 

 合わせて七十九人だが、これ以外に下級の遊女がたくさんいた。おそらく五百人を超えていたろう。

 

図4『金草鞋』(十返舎一九著、文化10年)、国会図書館蔵

 図4は、丸山の遊興の様子である。

 

 当時、料理は銘々に膳で出すのが普通だった。食卓に料理が並んでいるのが、いかにも長崎らしい。

 料理は卓袱(しっぽく)料理だろうか。

 

(続く)

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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