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歴史上の人物を四柱推命で鑑定!第97回~阿部正弘~

交渉力に長けた幕末のバランスキーパー

39歳の若さで亡くなったことこそ崩壊の危険性がはらむ“納音”の表れか

福山城(広島県福山市)天守閣広場にある阿部正弘之像。同じく福山市丸之内の備後護国神社にも、石像が建立されている。

 歴史上の人物に迫るには様々なアプローチがあるが、ここでは四柱推命(しちゅうすいめい)という手法を用いて、歴史上の人物がどんな性格であり、なぜ成功したのか(失敗したのか)を読み解く。※四柱推命と用語の説明はページの最後をご覧ください。

 

今回は、大河ドラマ「青天を衝け」で、大谷亮平さん演じる有能な老中・阿部正弘(あべまさひろ)を四柱推命で鑑定する。鑑定の結果、頭のよさが明らかになった一方、危うい星も持ち合わせていたことがわかった。

 

阿部正弘                                                                                                   

生年月日: 文政21016日(グレゴリオ暦:西暦1819123日)

阿部正弘:文政2年10月16日生まれの命式表

 正弘の生年月日から命式表を割り出すと上記のようになる。この中で、性格を表す、通変星・蔵干通編星をわかりやすく円グラフに表すと、知性30%、遊び心30%、自立心30%、人脈10%という結果になった。

阿部正弘:文政2年10月16日生まれの性格

知性…様々な分野の知識が豊富で、何かを学ぶことに喜びを感じる。頭の回転が速く、物事を論理的に捉えることが上手

 

行動力…頭で考えるよりも行動で結果を出す。未知の分野に挑戦する意欲が強く、交渉力や営業力を磨けば成功できる

 

人脈…さりげない気配りができて誰とでも仲良くなれる。サービス精神が旺盛でコミュニケーション能力も高く人を動かせる。

 

自立心…他人に依存することなく、自分が信じた道を突き進む強い精神性。リーダーシップを発揮しフリーで活躍できる。

 

遊び心…楽しいことを企画する等、生活に遊びを取り入れることが自然とできる。芸術面の才能があり、表現力が豊富。

 

 これらを材料に、正弘の性格を読み解いていく。

 

〇いわゆるスピリチュアルなタイプ

 十二運星に、「死(し)」を持っているが、死は霊感の星。スピリチュアル的な感性が鋭く、霊感があり神通力がある。

 

 正弘に霊感があったかどうかは史料からは明らかでない。しかし、物事のバランスをとる能力は、第六感があったからと考えると納得がいく。

 

 正弘が寺社奉行となった20歳の時に任された問題が、当時感応寺と江戸城の大奥の間で横行していた乱交事件だ。感応寺は11代将軍・徳川家斉(いえなり)によって建てられた寺院だが、その権威を利用した僧侶と大奥の女官の間で乱交が行われていた。目をつぶれない内容だが、明るみに出ては幕府の権威に関わる…。そこで、正弘がとった対処は、①感応寺の取り壊し、➁中心になっていた僧侶の処分、③家斉の側室で僧侶の娘・美代の処分、この3つだけだった。大奥の多くの女官が乱交に関わっていながら処分されたのは美代のみだった。大奥を敵に回してはいけないという勘が働いたのだろう。幕府の権威を保ちつつ、大奥も味方に取り込む…この正弘のバランス感覚が評価され、将軍・家慶(いえよし)から引き立てを受けるようになったのだという。

 

〇縛られるのが苦手な一匹狼!

 命式表に、「比肩(ひけん)」を持っている。比肩は自立心の星で、一匹狼、人の指示に従うのが苦手で我が道を行くタイプ。正弘はこの星を2つ持っており、この性格が強まっていたと考えられる。

 

 人の話をよく聞き、バランス感覚に優れた正弘のイメージからすると少し意外だったが、縛られるのが苦手だったからこそ、新しい発想ができたともいえよう。

 

 将軍・家慶の引き立てを受け、25歳という史上最年少で老中に命じられた正弘だが、次々と幕府の不正を暴いた。水野忠邦が再び老中首座に就くと、忠邦が家臣の後藤三右衛門から賄賂を受け取っていることや、砲術家・高島秋帆(たかしましゅうはん)に濡れ衣を着せ投獄させたこと等、数々の不正に関わっていたことを告発し免職とした。これまで皆が見て見ぬふりをしてきたであろうことに、敢えて踏み込んだのだ。この功労により、27歳にして老中首座となった。

 

 また、正弘は、それまで幕政に関わってこなかった外様大名の意見を積極的に取り入れた。特に結びつきが強かったのは、薩摩藩主・島津斉彬(しまづなりあきら)だ。前藩主・島津斉興(なりおき)を隠居させ、斉彬を藩主に就かせたのも正弘だ。正弘は斉彬の意見を取り入れ、外国船来航の情報を全国の大名に交付した。これまで外交に関する情報は幕閣だけで処理するのがそれまでの習わしだったが、諸大名に広めることによって海外列強への危機意識を高めようとした。

 

〇頭がよく交渉能力が高い!

 月柱の蔵干通変星(ぞうかんつうへんせい)を主星(しゅせい)と呼ぶが、通変星の中で1番大事で仕事等に影響を持つとされる。正弘はこの場所に「印綬(いんじゅ)」を持っている。印綬は幅広い知識を持ち、学校の勉強が得意な星。また、日柱の蔵干通変星を自星(じせい)と呼ぶが、通変星の中で2番目に大事で、プライベートに影響を持つとされる。正弘はこの場所に「傷官(しょうかん)」を持っている。傷官とは、遊び心の星であるとともに、頭のいい星でもあり、交渉能力が高い。主星にも自星にも頭のいい星を持つ正弘は相当なキレ者だったのだろう。

 

 正弘のずば抜けた交渉能力が発揮されるのは、欧米列強とのやり取りだろう。正弘は1840年に中国で起きたアヘン戦争から欧米列強に強い危機感を抱いていた。正弘がアメリカと交渉したのは、ペリーの時だけではない。1846年、ペリーの前に艦隊司令官をしていたジェームズ・ビドルが浦賀に来航し貿易を求めた際に、正弘はこれを断っている。その後、1853年にロシア艦隊を率いたプチャーチンが長崎で貿易関係を迫ってきた際も、拒否している。日米和親条約も戦争にならないための最低限の譲歩だ。アメリカ人の行動範囲を下田と函館にしぼり、アメリカには補給地点としての入港のみを許可している。その上、条約締結に関しても部下2人を出向かせ、最高責任者は関与していないとすることで幕府の威厳を保った。アヘン戦争の二の前にならないようにと、今となっては絶妙な判断、交渉だったと言える。

 

〇何をしでかすかわからない!?

 命式表の十二運星に「沐浴(もくよく)」を持っている。沐浴は、少年の星とも言われ、衝動的で何をしでかすかわからない、ある意味危険因子。芸術家として活躍するかもしれないし、放浪生活を送るかもしれない、突然海外に行くかもしれないし、突如起業するかもしれない…。その危険性が沐浴の魅力でもある。

 

 沐浴を持っている正弘にとって、幕臣として日々お役所仕事を淡々とこなすのは苦痛だったろう。だからこそ、外様大名と関係を築いたり、勝海舟やジョン万次郎といった逸材を発掘したりと、新しく画期的なことにチャレンジしたとも考えられる。しかし、老中首座という役職は時に彼の行動範囲を狭めたに違いない。もっと自由に生きたい!そんな衝動に駆られストレスになっていたのかもしれない。

 

〇危うい星を持っている!

 日柱の干支に「乙巳」、月柱の干支に「乙亥」を持っているが、このように十干が同じで、十二支が冲(ちゅう;正反対)の関係にある2つの組み合わせを「納音(なっちん)」と呼ぶ。納音は、物事が崩れたり、できかかったものが白紙に戻る等危うい状態を差し、結婚や仕事、事業等で積み上げたものが直前に崩れてしまう危険性をはらむ。

 

 これには筆者も驚いた。正弘の偉業を見ると、とても納音のような危うさは感じない。隠していたのか、無理をしていたのか、はたまた周りに上手に頼ったことが吉と出たのか…。歴史にたらればは禁物だが、「正弘がもっと長く生きていたら江戸幕府はもっと長く存続しただろう」等という言葉をよく聞く。アメリカの公司ハリスが「伊勢公殿の死は、日本にとって大いなる不幸」と発言したと伝わるが、正弘が39歳で若くして亡くなったそのことこそが、納音と言えるだろうか。

 

 

 今回は、名宰相と名高い、老中の阿部正弘を四柱推命鑑定してきた。安定的な印象があったが、衝動的、ダイナミックで不安定な星の持ち主だった。「納音」を持っていたのも意外だった。正弘の活躍は、納音を持つ人に対する希望となるだろう。

 

 「青天を衝け」では、阿部正弘役を俳優の大谷亮平さんが演じている。頭がよくそつがない印象を受けるが、本当はダイナミックで自由人的な気質を持っていたかと思うと、面白い。

 

 

【参考文献】

「阿部正弘とはどんな人物?簡単に説明【完全まとめ】」歴史上の人物.com HP  https://colorfl.net/abemasahiro-matome/ (2021331日最終アクセス)

「阿部正弘が有能すぎて死後に幕府が崩壊!勝を抜擢した老中の実力とは」日本初の歴史戦国ポータルサイトBUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)HP https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2021/03/24/109151/3#i-3 (2021331日最終アクセス)

 

 

■四柱推命とは?

 古代中国で生まれた「過去、現在、未来」を予見する運命学のひとつで、陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)をもとに、人が生まれながらにして持っている性格、能力、素質を理解し、その人の努力や経験で変わる後天的な運命までも予測することができる。

 

 具体的には、生まれた日(生まれた年・月・日・時間)をもとに命式表(めいしきひょう)を作成し占っていく。なお、ここでは生まれた時間は鑑定に含めていない。

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妃萃(本名:油川さゆり)(ひすい)
妃萃(本名:油川さゆり)ひすい

青森県八戸市出身。慶應義塾大学 社会学研究科 教育学専攻 修士課程修了、同研究科 同専攻 後期博士課程在学中。2013年鳥海流・鳥海伯萃より四柱推命の指南を受ける。これまで500人以上を鑑定。多数の弟子を輩出。

元放送局報道記者。フリーアナウンサーとして、BS11の番組にレギュラー出演しているほか、ナレーターや司会として活動中。日本の歴史、伝統芸能を伝えるため、歴史勉強会、その他イベントを主宰。自身も大和言葉、辞世の句、武田氏と油川氏等について講演活動を行う。合同会社真己、共同代表。また、2016年6月から「カミムスヒ」というソングユニットで歌手活動を開始。手話検定3級、ホームヘルパー、視覚障害者ガイドヘルパーの資格を持ち、社会福祉活動に積極的に携わる。

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古代の都と遷都の謎

「古代日本の都と遷都の謎」今号では古代日本の都が何度も遷都した理由について特集。今回は飛鳥時代から平安時代まで。飛鳥板蓋宮・近江大津宮・難波宮・藤原京・平城京・長岡京・平安京そして幻の都・福原京まで、謎多き古代の都の秘密に迫る。遷都の真意と政治的思惑、それによってどんな世がもたらされたのか? 「遷都」という視点から、古代日本史を解き明かしていく。