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江戸の疫癘防除(えきれいぼうじょ)~疫神社の謎㉕~

道陸神~女陰をふさぐ男根像や抱擁道祖神が魔除け⁉

「ふさぐ」という意味で文字碑もあれば単体像あった陰陽石

塞ぐという意味から,男女の睦み合う姿の道祖神も存在する

「ふさぐ」という言葉の意味について、興味深いものがある。

 

 上記資料の『調布市史民俗編』と『調布市百年史』に見られる、こんな記載だ。

 

『いくつかの集落では、ドウロクジンという陰陽石が土中に埋め込まれ(略)豆腐と御神酒を供えてから、その上にわらや竹、松飾りなどを用いて小屋掛けしたり、破ったりしたのち燃やしたという場合もある』

 

『中でも特徴的なのは、ここではドウロクジンという陰陽石の御神体を持ち合わせており、これを祀ったのち、その上で火祭りを行ったということである』

 

 ドウロクジンは、漢字で書けば道陸神となる。

 

 道祖神の別な呼び方で、村はずれの路傍(ろぼう)に祀られた民俗神とおもえばいい。

 

 村に邪鬼や悪霊や疫病神が入り込まないよう、あるいは旅ゆく人々の身に災難が及ばないよう、そんな願いを籠めたものだ。多くは石碑や石像なんだけど、それでもいろんな形態があって、文字碑もあれば単体像もある。

 

 よく見受けられるのは衣冠束帯(いかんそくたい)の男神と女神の並んだ双体像で、手を繋いだり、抱擁したり、接吻したりと、まあこれはほんとにいろいろあるんだけれども、ときに金精と呼ばれる像がある。

 

 端的にいえば男根像で、夫婦和合や子孫繁栄の象徴とおもえばいい。

 

 でも、どうして、この石像が村はずれの辻に鎮座しているのか、普通に考えれば妙な話だ。夫婦和合にせよ、子孫繁栄にせよ、どちらも村の境に祀ることはないんじゃないかとおもうんだけど。

 

 まあこれは、塞ノ神だから、というのが解答だろう。 塞は、前にも触れたように「ふさぐ」という意味だ。

物を入れる、目を粗く編んだ竹籠である目籠(めかご)。箕借り婆避けの意味も含め、塞ぐ役目で現在でも寺院などで置かれることが多い。写真/稲生達朗

陽石は比較的発見されやすく、陰石は形状のせいか少ない

 

 それは男根が女陰をふさぐことに通じる。ちなみに、古来、男女の生殖器が合体したときにはとてつもない呪力を生むとされてきた。だから、まぐわいの象徴が村の入り口を塞ぐようにして祀られているわけだけど、ただ、上記にあるような陰陽石というのは、ちょっと珍しい。

 

 というのも、陽石は比較的よく発見され、奇岩で知られる景勝地などにも鎮座していることは多いが、陰石はやはりその形状のせいかなかなか見つけられず、これが陰陽二石が併祀されるのはなかなかお目に懸かれないからだ。

 

 よく知られているのは宮崎県小林市の自然石だが、これはあくまでも別格だ。中部地方や関東地方では稀に見られるというけど、僕はこうした自然石が道陸神として村の外れや辻に祀られているのはお目に懸かれたことがない。

 

(今も調布に残ってたら、六義園や月読神社の陰陽石並に評判になるんじゃないかな)

 

 そんなことをおもったりもしたけど、

 

(まあ、どうでもいいか)

 

 大切なことは、その組石を埋めた上で、火祭りを行ったってことだ。

 

(ただ、どんな火祭りだったのか、それがわからないんだよな)

 

 文字どおり石に塞がれたような気分だが、調べようがない。核心に近づいているような、遠ざかってしまうような、そんな感じといえばいいんだろうか。どちらにしても、足掻きようのない足踏みをしていることには変わりない。

 

(まいったな……)

 

 ところで、余談ながら。

 

 令和の今、調布では、駅周辺の食堂の大盛料理が名物にされているようなんだけど、おもわぬところでその根源に出くわした。柴崎村の大喰講というのが、それだ。これも『調布市史民俗編』の記載を拾うと、野菜、蛤(はまぐり)、煮干し、一升飯などを食べ競べるそうで、初午(はつうま)の行事とされ、それが終わると皆が打ち揃って氏神に参詣したというから、この柴崎稲荷(旧三界寺)の境内で催されていたのかもしれない。

 

 となれば、調布名物の大盛料理は、柴崎稲荷に奉納されても決しておかしくはない。

 

(次回に続く)

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過去記事

秋月達郎あきづき たつろう

作家。歴史小説をはじめ、探偵小説から幻想小説と分野は多岐にわたる。主な作品に『信長海王伝』シリーズ(歴史群像新書)、『京都丸竹夷殺人物語: 民俗学者 竹之内春彦の事件簿』(新潮文庫)、『真田幸村の生涯』(PHP研究所)、『海の翼』(新人物文庫)、『マルタの碑―日本海軍地中海を制す』(祥伝社文庫)など

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