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愛と美と性を司る女神・アフロディーテの奔放すぎる愛 「非モテ系男子」の復讐

ギリシア神話の世界


 

■母に捨てられた子の復讐劇

 

 ヘラは結婚・出産・家庭の婦人を守る神であって、自身の子どもへの愛情にはムラがあった。彼女の子のなかでも最も不遇を強いられたのは、のちに火と鍛冶の神となるヘパイストスである。片足が不自由なうえ、容姿全体も醜い。ヘラはそれが面白くなかったようで、ついにはオリュンポスの宮殿から下界へ投げ捨ててしまった。

 

 幸いにして、海の女神テティスとエウリュノメに拾われ、愛情を込めて育てられたヘパイストスは成長後、ヘラへの復讐を実行する。

 

 黄金製の豪華絢爛な椅子をプレゼントしたい。ヘラは過去の自分がしたことなどすっかり忘れ、ありがたく椅子を頂戴すると、早速腰掛けてみた。すると瞬時に仕掛けが作動。無数の鎖が飛び出し、ヘラの全身を拘束してしまった。

 

 この鎖は他の神ではどうにもならない代物で、ゼウス以下、オリュンポスの神々がこぞって仲裁に乗り出すと、ヘパイストスは条件付きながら解放を承諾した。その条件とはヘラの謝罪でも愛情でもなく、愛と美の女神アプロディテとの結婚だった。

 

 アプロディテは美貌の点ではヘラやアテナと甲乙つけがたいが、セクシー度では数ある女神のなかでも最上級。つまり、総合的には男神たちすべてにとって垂涎の的と言ってよかった。アプロディテは不服だったが、ゼウス以下、神々一同に頼まれては拒むこともできず、しぶしぶヘパイストスとの結婚に同意した。

 

 けれども、アプロディテの辞書に貞操という言葉はなく、ヘパイストスが仕事場に出向いている時を狙っては、軍神アレスとの不倫を謳歌していた。

 

 だが、どのような秘密も太陽神のヘルメスはお見通しで、これは面白いことになると閃いたヘルメスが不倫の事実をヘパイストスに伝えた。ヘパイストスは動かぬ証拠をつかんだうえで、アプロディテとアレスに罰を下そうと考えた。

 

 ヘパイストスがそのために製造したのが、神の目にも見えない透き通った網である。自分以外のどの神にも、解くことも破ることもできない特別な代物。それを自宅の寝台に仕掛け、いつものように仕事場に出かけるフリをした。

 

 そんなこととは露知らず、アレスを招くアプロディテと何ら疑いもせずやってくるアレス。2神が生まれたままの姿となり、寝台上でいざ事に及び始めたとき、ヘパイストスの仕掛けが発動した。

 

 ヘパイストスはただちにオリュンポスの神々を呼び集めた。証人とするためである。公然の事実とはいえ、いざ2神のみっともない姿を目の当たりにするにつけ、神々は大笑いを禁じえなかった。

 

 ゼウスと並ぶ好色漢のアポロンに至っては、いたずら好きのヘルメスにこんなジョークを向けた。

「どうかね、君がアレスの身代わりになってやっては」

 これに対するヘルメスの答えも活かしている。

「ぜひそう願いたいですね。この三倍くらい頑丈なのでもいいですよ」

 

 神々は飽きることなく見物を続けたが、やがてポセイドンが仲裁に乗り出すに及び、ヘパイストスはようやく仕掛けを解除した。2神はさすがに体裁が悪く、しばらくはそれぞれ別の場所に身を隠していたが、これに懲りて改心することはなかった。

 

 アプロディテはヘパイストスと和解しながらアレスとの不倫も続け、4柱の子をもうけていた。ヘパイストスとの子はゼロだというのに。愛と美の女神は「非モテ系男子」にとっては、厄種以外の何物でもなかった。

イメージ/イラストAC

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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