中国資本の土地買収による安全保障の危機 瀬戸内海・笠佐島を覆う「静かなる侵略」とチャイナマネーの脅威
山口県周防大島町に隣接する、人口わずか7人の小さな離島、笠佐島。瀬戸内海の穏やかな海に囲まれたこの島がいま、中国資本による土地買収という「静かなる侵略」の脅威にさらされている。2017年頃から始まったとされるこの動きは、単なる不動産取引の枠を超え、日本の安全保障を揺るがす深刻な事態へと発展している。
事の発端は、上海在住の中国人ら複数が、島の南側にある約3,700平方メートルの土地を取得したことにある。登記簿によれば、取得者は中国に住所を持つ個人やその知人とされている。当初、仲介した不動産業者は「別荘を建てる目的であり、問題はない」と判断したというが、現場の状況は極めて不自然だ。森林は無残に伐採され、本来は島民の居住エリアではない場所に、突如として電柱が立てられ通電が開始された。放置された重機や資材は、何らかの意図を持った開発が進められていることを無言で示唆している。
■安全保障上の空白地帯
笠佐島がこれほどまでに注目される理由は、その地理的条件にある。この島は、米軍岩国基地から20キロほど、海上自衛隊の呉基地からも50キロほどという、国防上極めて重要な場所に位置している。さらに周辺には原発計画のある上関町も控え、瀬戸内海のシーレーンを監視するには絶好の拠点となり得る。
日本には2022年に施行された「重要土地等調査法」が存在するが、笠佐島はこの法律の網の目から漏れているのが現状だ。自衛隊施設や原子力発電所などの「重要施設」から概ね1キロメートル圏内が調査・規制の対象となるが、笠佐島は重要施設から一定の距離があるため、外国資本による買収を直接制限する法的根拠が乏しい。この「法の空白」を突き、着々と拠点を築くチャイナマネーの手法は極めて巧妙である。
■住民の不安と買い戻しの動き
島民の不安は、物理的な景観の変化だけではない。中国には「国家情報法」や「国防動員法」が存在し、有事の際には海外の中国籍者が保有する土地や施設を国が徴用することが可能だ。つまり、一見すると個人の別荘地であっても、将来的に中国軍の監視拠点や通信拠点へと転用されるリスクを孕んでいる。
「このままでは島全体が中国人のものになってしまう」という危機感を抱いた島民たちは、「笠佐島を守る会」を設立した。彼らは自費やクラウドファンディングを通じて、買収された土地を買い戻すための活動を開始している。人口7人の限界集落に近い島で、高齢の住民たちが立ち上がらざるを得ない現状は、日本の主権保護がいかに脆弱であるかを浮き彫りにしている。
■求められる抜本的な法整備
笠佐島で起きている事態は、北海道の森林や対馬の自衛隊基地周辺で起きてきた問題と地続きである。外国資本による土地取得は、自由経済の原則に基づくべきとの声もあるが、国家の安全保障に直結する土地については、より厳格な規制が必要だ。
現在の「重要土地等調査法」の対象区域拡大や、外国資本による土地所有の許可制導入など、抜本的な法整備が急務である。瀬戸内海の静かな島を覆うチャイナマネーの影は、もはや一地方の不動産問題ではない。それは、日本という国家が自らの国土を守る意志があるのかを問う、主権に関わる重大な警告なのである。

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